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良く晴れた夏の日。
……にも関わらず、夕方から土砂降りになってしまった。夏の天気はどうも変わりやすくて苦手だ。
雨の中を傘を差して歩く。
傘が弾く雨の音が鼓膜を震わせ、それ以外の音は耳に入ってこなかった。にもかかわらず、悲しげな犬の声が確かに聞こえる。脳内に直接と言っても良い。何故かはっきりと聞こえるのだ。
鼻を鳴らし、泣いているかのような声。
辺りを見渡せば、そこにはびしょ濡れの子犬がいた。
「おい、大丈夫か?」
咄嗟に傘を差し、声をかける。子犬の瞳は何処か虚ろだった。
犬種は柴犬とかだろうか? それにしては随分と体が小さい……。産まれてからまだ数週間しか経っていないのだろうか。首輪も付けていないし、まさか捨て犬?
犬の事は良くわからないが、自分なりに答えを導き出す。そして、自分がどうしたいのかも。
小さな子犬の体は、まだ小学生のアキの腕に抱きあげられた。
……雨のせいか、その体はとても冷たかった。
早く帰って乾かしてあげよう。きっとお腹も空かせてるだろうから、何か食べさせてあげよう。子犬がこれ以上濡れないように傘の角度に気を遣いながら、アキは自宅へと急いだ。
だが、家についた時にはもう、子犬は亡くなっていた。
その表情はどこか嬉しそうに、笑っていた。
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