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蓄音機でクラシック音楽を流しながら、刺繍を楽しむエリーゼ公爵夫人。白いハンカチには、ザクロの赤い実と赤い花の刺繍が施されている。
ボーンボーンボーン。
「あら? ティータイムの時間ね」
エリーゼは裁縫道具を片付けると、蓄音機を止める。そして新しいレコードを取り出してかけ始めた。
先ほどのゆったりしたメロディーとは異なり、アップテンポな曲調に、エリーゼは満足そうに頷くと、本棚の前に立つ。
彼女は黒い背表紙の本を手前に引き出す。
カチリ。
どこかでスイッチが押され、ネジを巻く音と共に本棚が動き、地下に続く階段が現れた。
エリーゼは壁につけられた台の上に置いてあるマッチを刷り、その傍らにあるランタンに火を灯した。
それを手に、彼女はヒールの音を響かせながら、地下へと降りていく。
階段を降りるにつれて、気温は下がっていくが、エリーゼの顔には笑みが浮かんでいた。
やがて最下層にたどり着き、木の扉を押し開ける。
そこには拘束具やギロチン。大きな斧や棍棒、大量の針などの拷問具に、湯を沸かすための簡易キッチンと食器棚に、さまざまな大きさの薬品の入った瓶や、空の空き瓶まで揃っていた。
「うー! ううー!!」
「んー!! んんー!!」
そして部屋の奥からは、呻き声が聞こえてくる。
「フフフッ」
エリーゼは小さく笑って、部屋の奥へと進む。そこには鉄格子があり、中には鎖で繋がれ、目隠しと猿轡をされた少女たちがいた。呻き声の発生源は、彼女たちからであった。
エリーゼは鍵を開けて、牢の中に入る。
「今日は、どの子にしようかしら?」
「んんんー!!」
「ううー!!」
「あらあら? みんな元気ねぇ。じゃあ今日は……」
エリーゼはひときわ大きく呻いていた金髪の少女の髪を鷲掴んだ。
「あなたにするわ」
「んんー!! んんんーー!!」
「お黙り!」
暴れる少女にビンタをするエリーゼ。大人しくなった隙に、壁の留め金をはずして鎖を引っ張る。
「まったく。手間をとらせないでちょうだい」
「んん!! んんーー!!」
わめく少女を無視して、エリーゼは彼女をギロチン台に固定する。
「安心なさい。あなたの血肉、余すことなく使ってあげるわ。これで飛ばした首を酒につけて、首酒を。切り口から出た血で、紅茶をいれましょう。あら? あなた、手も綺麗ね。これは、細かくてして、ケーキにいれましょうか」
「んんー! ううーー!!」
エリーゼはふぅっと息をついて、ギロチンの刃を下ろす取っ手に手を置く。
「ものわかりの悪い子ね。あなたはこの私の美しさを保つために死ぬのよ? 光栄に思いなさい」
「んんー! んんんんー!!!!」
エリーゼはギロチンのレバーを下げた。
スパンッと音と共に、少女の首が冷たい石の床を転がる。
首から流れ出る血は、ギロチン台の下に置かれていた桶に受け止められていく。
エリーゼはというと愛しそうに少女の首を拾い、目隠しと猿轡をとってやる。少女の顔は絶望で染まっていた。
「フフフッ。素敵な顔ね。この絶望に満ちた表情こそ、いいお酒が作れるのよ。それにあなたの血もとても赤くて、濃くて新鮮だわ!」
少女の首を大きな空き瓶に押し込み、酒をいれる。
「これで熟成させれば、立派な首酒。夜の楽しみも増えたわね!」
ぴーっと音をたてて湯が沸いたこと示す。
「お湯も沸いたことだし、前の子で作ったタルトもあったわね。それじゃあ私の美を保つための、3時のティータイムを楽しみましょうか」
少女たちの呻きと鳴き声をBGMに、エリーゼは血の紅茶を飲む。
彼女には罪悪感などない。すべては己の美貌を保つためにしていること。たとえ街で少女を狙った誘拐で騒がれていても、自分が犯人扱いされていたとしても、彼女にはまったく関係がなかった。
「私は誰よりも美しいの。美しくいなければならないの。私のために死ねるのだから、光栄に思いなさい。愚民共よ。オーホホホホッ!」
エリーゼ公爵夫人は処刑される瞬間まで、そう言っていたそうだ。
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