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樹人さん誕生
「まっかせてください! ひとまずこのワイバーンをどうにかしてこんなちんけな村を去りましょう!」
「わ、ワイバーンを!? なんかいっぱいいるけど!?」
「今のハルさんは正直いってゴブリンよりも雑魚な存在です。な、の、で! これを使ってもらいます! ハルさん、手を出してください」
私が言われるままに両手を出すと、小さな種がいくつか手の平を転がった。
「これは? も、もしかしてなんか凄い種なの!? ドラゴンが咲く種とか!?」
「……ハルさん作家の才能ありますよ。現実見てください。ただの種です」
「急に辛辣になるの止めてよ。それでこれをどうすればいいの?」
「はい、ついさっきハルさん転びましたよね。血が出ていますね。その血を種につけてください」
「え? あ、うん」
私は膝小僧の血に触れる。
そしてその血を種に擦りつけた。
すると……。
「え、なに!?」
種がみるみる膨らんでいく。
私は思わずそれらを手放した。
膨らんだ種は次第に殻を破り、中身が晒される。
種が伸びた苗がさらに成長し……みるみるうちに木となり、人となる。
「人型の……木?」
木達が一斉に私に跪いた。
「彼らは樹人です。言ったでしょう。聖女の血には強力な魔力が宿っていると。彼らはハルさんを守る騎士にもなってくれます!」
「えぇ、でも木だよ? 燃やされて終わっちゃうんじゃ……」
「はい、それでは時間を元に戻しますね! 樹人の皆さん! 主をお守りしてください!」
「え!? あ、ちょっと!?」
全然話聞かないな私の人生書!
すると途端に周りの時間が進みはじめたのが分かる。
私の目の前には炎の渦が──。
樹人の一人が私の前に飛び出し、その炎を一身に受けた!
「樹人さん!!」
樹人さんは燃えてはいるものの、すぐには燃え尽きないようだ。
その間に残りの樹人さんが凄い速さでワイバーンに飛び移る。
何人のも樹人さんにしがみ付かれたワイバーンは堪ったものじゃない。
なんとか振り落とそうとするが、樹人さんの腕がみるみる伸びてワイバーンの首を絞め始めた。
やがて、苦しそうな鳴き声を上げて、ワイバーンが地面に衝突する。
一斉に樹人さん達はそのワイバーンから離れて次の獲物に目を向けた(目というか穴だけど)。
目を向けられたワイバーン達は突然現れた得体のしれないものに驚いたのかすぐ様空高く飛び、去っていく。
絞められたワイバーンは気を失っていた。
「す、すごい……あっという間……」
私は燃え続ける樹人さんに目を向ける。
どうしていいのか分からず、ひとまず井戸を探した。
無事である樹人さん達と一緒に井戸の水を汲み、どうにかして消火する。
その頃には樹人さんは身体の半分が燃えてしまい、足と腰だけになってしまっていた。
私は痛ましいその姿に眉が下がる。
「ミル、この樹人さんは……」
「大丈夫です。自然の生命力をなめないでください! まだ彼はじきに再生しますよ」
下半身だけになってしまった樹人さんは足を上手に使い華麗なタップダンスをしてみせる。
どうやら「大丈夫だ」と言ってくれているようだ。
私は安堵して、微笑んだ。
するとここで、どこからか私の名を呼ぶ声がする。
聞き間違えるはずがない。この声はレンヤだ! どうしよう!
ミルは舌打ちをすると(舌あるの?)、樹人さんに何やら指示を出した。
樹人さんの一人が私を横抱きする。
「え?」
「ここは逃げましょう! 話がややこしくなりますし、もう顔は見たくないでしょ?」
「! ……うん」
私は後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、頷いた。
ここで立ち止まったら一生旅に出ることが出来ない気がしたのだ。
樹人さん達が走り出す。
私は樹人さんの腕の中で揺られながら、チラリと後ろを見た。
「……バイバイ、レンヤ」
大好きだったよ。エリザとお幸せに。
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