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聖女の制約
森の中。随分と村から離れることができたようだ。
周りに避難した村人達もいないようだし、とりあえずは安心した。
「──と、いうわけで、一通りの説明したわけですが……どうでしたか?」
「どうって。まぁ、凄かった。私の血にあんな力があるなんて……」
「そうですね。聖女はこの世最強の職業と言ってもいいくらいです。その力は勇者にも劣らないでしょう。まぁぶっちゃけ、勇者の女性版みたいなものなんですけどね。つまりS級職業、いえ、SSS級の職業です」
「SSS級……」
私は樹人さんに寄りかかりながら、息を呑む。
「とりあえず、今後の事やスキルの事を詳しく説明していきましょうか」
「う、うん」
ミルはパラパラと自分の中身を晒した。
「ではハルさん、私に触れてください」
「え? あ、うん?」
「あ、ああん♡」
突然喘ぎだす我が書に私は変な声が出る。
「ちょっと!! なんて声出してるの!!」
「もう、ハルさんったら! もっと優しく触ってください! 私はデリケートなんです」
「う、うるさいな……優しくね、優しく」
「あっ♡」
「ミル!!!!!!!!」
私はミルを破り捨ててやろうと思ったが、やはり躱された。
もう、調子狂うなぁ。
「冗談ですよ、冗談! ほら、今度こそ大丈夫ですから」
「全くもうなんなのよ……」
私がミルに触れると、文字がペンで書かれているかのように浮かび上がり始める。
レベルアップ……?
どうやらその文字によると、先ほどのワイバーンとの戦いで私のレベルが上がったらしい。
私戦ってないのにね。
「レベルアップおめでとうございます! とりあえず、職業レベル0からレベル5まで上がりました! スキル『筋力強化』、『魔力強化』を覚えました! 『筋力強化』は既に備わっていたのでスキルレベルが上がります」
「文字じゃなくてあなたが言うのね。まぁ分かりやすくていいけどさ」
私はページに浮かび上がってくる文字を読みながら、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「ねぇ、そういやワイバーンと戦う前に“厄介な制約”があるって言っていたよね。それは確認できないの?」
「え、」
ミルの身体が揺れる。
あれ? これって聞いてはいけなかったのかな?
いや、でもそれを知らないと死ぬかもしれないんだし……。
「あ、あぁ、そうですね。大切ですよね、それ。うんうん」
「どんなものなの? 正直代償が一番怖いんだけど」
するとページが捲れ、新たな文字が現れてくる。
【 職業「聖女」制約
邪悪なる王と名乗る者が現れたのなら、殺せ。さもなくば死ぬ。】
「……邪悪なる王って」
「はい、今で言う魔王ってやつですね~」
ミルがあっさり言うものだから「そうなんだ」と頷く。
しかし、よく考えたら相当無理な話だ。
──だって、つまり私が魔王を倒さないと私は死ぬんでしょ!?
「はぁ!? ふざけないでよ!」
「ふざけているのはそっちですよ。これだけの力、魔王を倒す以外に使い道あるわけないでしょう」
「だ、だけど……魔王って……世界中の戦士達や上級職業者が束になっても勝てない相手でしょう?」
「はい。だからSSS級の職業が要るんです。ほらほら、次は聖女のナチュラルスキルを確認しますよ」
【聖女 ナチュラルスキル
①宿命 レベルなし
②聖女の涙 レベルなし
③聖女の血 レベルなし
④筋肉強化 レベル5】
私はそこで眉を顰める。
「? ねぇ、他のスキルは分かるけれどこの“宿命”っていうスキルはなに?」
「あぁ、それは……えっと、まぁ、魔王を倒すための制約から生まれたスキルであって、特に意味はないですよ! 気にしないでください!」
「??」
なんか変じゃない?
そう思ったけれど、突然顔面に迫ってきた柔らかい何かに私は呼吸を遮られてそれどころではなくなった。
え!? なにこれ!? これって、胸!?
「むぐぅ!?」
「はーい♡ 難しいことは考えない考えない。とりあえずハルさんはこれから魔王さんを倒すためだけに行動すればいいんです! サービスで人間の姿に変身しちゃいます!」
「はぁ!?」
柔らかさの暴力から解放され、私は顔を上げる。
これでもかというくらい己の存在を主張する胸。
惜しげもなく晒されるきゅっと引き締まった腹。
黒いミニスカートから伸びた足のほどよい太さには同性だけど拍手を送りたい。
オマケ程度に頭に乗せるとんがり帽子から、やっとミルの姿が若い魔女のものだと判断した。
「ちょっと大胆すぎます?」
「な、ああなななんあな!? み、ミルっ!? 何してるのよ! 変身!? 人生書なのに!?」
ミルはアメジスト色の髪を弄りながら、ウインクをする。
「この姿の方が色々と楽なんですよね。本よりも動きやすいし。あ、美男子の方がよかったですか?」
「……もう、貴女ってなんでもアリなのね」
私はため息を吐いた。
「……ミルは本当に私が魔王を倒せると思っているの?」
「はい! 勿論思っていますよ。ちなみにハルさんが意図的に魔王から遠ざかったり逃げたりするような行動をとればその時点でおそらく即死かと。その判断は私がさせていただきます! まぁ今は普通に生活してれば即死はないので安心してください」
ミルは私の頭を撫でながら、にっこり微笑む。
不覚にも、その優しい手に胸が温かくなってしまった。
……私にお母さんがいればこんな風に頭を撫でてもらえたのかな、なんて。
「……自信ないよミル」
「はい、そうでしょうとも。だから……それまで私が貴方の傍にいて、貴女を支えます。我が主」
今度は優しく抱きしめられる。
私は少しだけ、その温もりに泣きそうになってしまった。
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