167人が本棚に入れています
本棚に追加
特訓開始
「それではハルさん! ひとまずシュトラール王国に着く前に聖女の力が少しは引き出せるように特訓しますよ! 先生はこの私、ミルちゃんですっ! 私の特訓は厳しいので覚悟してくださいね」
「は、はぁ……」
村を出てから一日が経った。私は相変わらずミルのテンションに慣れないまま。
でも本当に魔王を倒すのなら私が強くなるのは必至だろう。
樹人さん達に頼りっぱなしもいけないし……。
するとそこで草陰が不自然に揺れ私達の前ににゅるり、と得体のしれない何かが現れた。
私は拳を構える。
──スライムだ。
「おぉ! ついに魔物が現れる領域に突入ですねっ! レベル上げ開始です」
「え!? もう戦うの!?」
まだ心の準備できてないのに!
スライムは様子を見ているのか、動かない。
そもそもスライムって、目とかあるのかな……?
「ハルさん! 張り切っていっちゃいましょー!!」
「えぇ、戦うってどうやって!? 私、なんにも武器ないんだけど!?」
「大丈夫です! ひとまずあのスライムに体当たりしちゃってください!」
「体当たり!?」
なんだか嫌な予感がするんだけど……。
私はとりあえず恐る恐るスライムに近づいてみる。
あ、意外に大人しい……?
でも実体のないスライムに体当たりしても意味がないのでは?
ミルをチラリと見たが、やはり指示ミスではないようだ。
とりあえずやってみよう。スライムは人間の皮膚には無害だって聞くし怪我はしないだろう。多分。
しかし私が拳を握った瞬間、スライムが突然津波のように広がり襲い掛かってきた。
「きゃあっ!!」
私はスライムに覆われ、その場で尻餅をつく。
するとミルが鼻息を荒げて目を見張った。
「ハルさん、服、気を付けてくださいね!」
「はぁ!? 何言って、」
私はまさかと思い、下を見る。
皮膚には痛みも何も感じないが、着ていたボロボロのスカートがみるみる溶けていくではないか。
すぐにスライムを払おうとするが、沼のように私の身体をさらに沈めていくスライム。
「み、ミル!! これどうすればいいの!!?」
「スライムは燃やせばいいんですよ」
「はぁ!? 燃やす!?」
「はい。レベル6になったらスキル『炎魔法の心得』を覚えます! つまり、そのスライムに服を全て溶かされる前に違う魔物を倒してレベルアップしましょう! それが私からハルさんに贈る初めてのミッションです。あ、ちなみに溶けた服は私がコピーしていますのでいつでも作れますよ! ご心配なく!」
「な、なにいって」
「言ったでしょう? 私は貴女が魔王を倒すまで、傍にいると。貴女には強くなってもらわないといけないんです! はい、それでは、ミッションスタート☆ 違う魔物を探してください!」
「な、なにそれ~!!!」
私はスライムの気持ち悪い感触に襲われながら、必死に走った。
上着のボディスやシフト全部溶かされるまであと五分ぐらいかな。
その間にスライム以外の魔物を倒せるの!? 私には何もないのに!?
しかしなかなか魔物は見つからない。
走り回ったせいで息が切れる。
聖女って、体力は元のままなのね……。
一際大きい岩に寄りかかり、私は息を吐いた。
「はぁ、魔物全然いないんだけど……本当に魔物増殖してるの……? はぁ、」
そう呟いた時、私はふと気づいた。
なんだこの気持ち悪さは。
この、近距離から見つめられているような違和感は?
私はなんとなく寄りかかっていた岩を見た。
岩には私の顔より大きな目玉がある。
まぁ、岩だもんね。
目玉くらい、あるかぁ……。
──って、んなわけあるか!!
はい、さっそく魔物のご登場のようです。
最初のコメントを投稿しよう!