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ゲイザーでレベル上げ
「──魔物!?」
「キィィイイイイイイ!!!」
耳を押さえたくなるような高い声に私はすぐにそいつから距離を取った。
目玉岩はあちこちから触手を生やすと、その触手の先端にもつぶらな目玉が現れる。
この目玉の怪物は……。
「ハル様! ゲイザーです!」
ミルの声が聞こえる。
ゲイザーって言うのかこの魔物!
ゲイザーは私を餌だと認識したのか、口をぱっくりと開き、鋭く細い数多の牙を見せてきた。
私は一歩下がってしまう。
「み、ミル~! 樹人さん! 助けて!」
「樹人達には手を出さないように言ってあります。しかしここでハルさんに私からのヒントを与えちゃいます!」
「ヒント!?」
「ヤツの目玉の目の前で手を思い切り叩いてみてください! 以上!」
「手を叩く?」
するとゲイザーが涎をまき散らしながら私の方へ向かってきた。
私は考えるより先に手を構える。
もうこうなったらミルを信じるしかない。
必死に冷静を装って、タイミングを図る。
そしてゲイザーの牙が私の皮膚に触れる前に──私は思い切り手を叩いた!
「キィィイイイイイイいいいいいいい!?」
刹那、ゲイザーはくるくるくると宙で数回転すると、そのまま地面にめり込んだ。
ピクピクと痙攣して動かなくなる。
私は唖然とした。
これって、魔物を倒せたのかな? 嘘、手を叩いただけで?
「ゲイザーは非常にストレスに弱い魔物なんです。なのでちょっと脅かせば気絶します。生命力はずぶといんですけどね」
「そ、そうなんだ……」
「気絶しても一応経験値は入りますし、これを繰り返せばレベルアップはできますね! はい、それでは背後をみてください!」
「え?」
振り向くと、十数匹のゲイザーがこちらを見つめているではないか。
「そこらへん、ゲイザーの巣があるみたいですね。ゲイザーは雑魚ですけどたくさん気絶させればいつかはレベル上がりますよ!! ファイト!! ちなみにあと三分で全裸になっちゃいますよ!」
「う、嘘……!!」
ゲイザー達は先ほどのゲイザー同様口を大きく開いてこちらに向かってくる。
私はスライムを付けたまま、ひたすら手を叩いてゲイザー達を仕留めていく。
そうしている間にも私の肌は晒されていった!!
そしてついに十三匹目のゲイザーを仕留めた時──。
「ハルさん! レベルアップしました!! 炎魔法が使えるはずです!!」
「やっと?!! もう胸丸見えだけどね!!?」
私は胸を片手で隠しつつ、拳を握った。
正直本当に炎魔法を使えるか不安だけどスキルのおかげで使い方は自然に理解できた。
「っ!」
全身に力を入れると身体が炎で包まれる。
──出来た! 炎魔法!
私はそのまま火力を強め、未だに私の腹を覆っているスライムを燃やして消した。
「ギリギリ……」
なんとか股間辺りは守った。
私は息を吐くと、突然全身が燃えだした俺に警戒するゲイザー達を一瞥し、ミル達の所へ戻る。
「ハルさん! なんとか無事にミッション成功ですね!」
「むちゃくちゃだよもう……」
「まぁ、とりあえずは合格です」
そんなミルの言葉を聞いて、肩の力を抜いた。
しかしその時、ミルの目がキラリと光る。
「ハルさん? どうして気を緩めているのですか?」
「え?」
「次に行きますよ! あちらの方にもう一匹スライムがいますから、全部の服が溶けるまでにゲイザーを今度は二十匹倒してください! 倒すまで炎魔法は使えませんよ!」
「えぇ!? 服が溶けるまでって……もうこの状態じゃ三十秒もないよ!」
「最初のミッションに手こずった自分を恨んでください! あ、ゲイザー倒すより先に全裸になったら今日の夜ご飯は抜きですよ☆」
私の人生書は鬼なの?
絶望に沈む私を前にミルはそれはそれは不気味に笑った。
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