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ついに入国
──なに?
──なにか……苦しい?
──は!? まさか昨晩の幽霊じゃ!!?
私は慌てて目を開ける。
真っ先に目に飛び込んできたのは──。
「お、は、よ、う、ございます♡ 主様!」
「ぶほっっ!!? はぁはぁ、殺す気?!! 息が、」
答え、ミルの乳。
私は今、乳に殺されそうになったのだ。
「ちょっと! な、なな何してるの!? もう、最悪の目覚め……」
とりあえず今日中にはシュトラールに到着する予定なんだし、さっさと行こう。
私はすぐに顔を洗い、樹人さんが採ってきてくれた果実を齧る。
シュトラールへの道は確か……。
ミルが出してくれた地図を確認しながら道を探していると、女の人の叫び声が聞こえた。
──なに?
「ハルさん! 後ろです!!」
ミルの声に私はすぐに後ろを振り向く。
すると女の人が岩に追いかけられているではないか。
……いや、あれは岩じゃない!! 今までこの森で散々倒したゲイザー!!
「ハルさん、この森での私からの最終ミッションです!」
「りょ、了解!」
私はゲイザーが今にも女の人に齧り付きそうだったので、女の人の腕を引いた。
そして目を瞑る様に女の人に注意する。
「輝け!」
どうだ! この森での特訓でスライムに服を溶かされながら私が身につけた渾身の「光魔法」!
私の手の平から発生した光の玉がゲイザーの目の前で強い輝きを放つ。
ゲイザーの目がその光に耐え切れずに少しだけ溶けた。
「キィイィイィイイイイイイイイいい!!?」
ゲイザーがつんざくような叫びを上げて宙を数回転する。
今まで嫌というほど相手をしたんだ。正直もう二度と見たくない。
私は戸惑う他のゲイザー達に口角を上げた。
「それで? 自分からその自慢のおめめを溶かされたいゲイザーはいる!? 」
「…………っ、」
ゲイザー達はそれぞれ顔を見合わせ、慌てて自分で森の中へ転がっていった。
ちょっと気分がいい。
「ハルさん! やりましたね。私も鼻が高いです!」
「えへへ」
そこで私は助けた女の人を見る。思わず見惚れてしまった。
天使が本当にいるとしたら、きっとこの人みたいな容姿なんだろう。
ふわふわした雲のような金髪に、絹のような綺麗な肌。
同性としてはちょっと恥ずかしくなっちゃうくらいだ。
女の人は私ににっこり微笑んだ。
「助けてくれてありがとうございます。貴女、名前は? とってもお強いのね」
「あ、ハルです! お怪我はありませんか? えっと……」
「あぁ、私はマリア。よろしくねハルちゃん」
差し出された手を握ると少しだけ冷たくてうっとりするくらい柔らかい感触に驚いた。
しかもいい匂いするし……。
こんな女の人になりたいなぁ、なんてね。無理無理。
私達はその後シュトラール王国に住んでいるというマリアさんを送り届けることにした。
しかもマリアさんの家は宿屋だということで、シュトラール滞在中は無料で住むところを提供してくれるとのこと。とっても助かる!
……ちなみに私とミルは魔法使いの師弟ということになっている。
「ところでマリアさんはどうしてこんな森に一人でいたんですか? まさか戦う事も出来ない職業ではないんですよね?」
「いえ、私自身は戦えませんわ。でもこの森は薬草や食材の宝庫なのでつい足を運んでしまって……いつもはお友達と一緒に来るんですが、今回は上手くいかなくて」
「? 上手く、いかない?」
私は眉を顰めたが、マリアさんとミルが次の話題で盛り上がったのでそれを言及することはなかった。
──数時間後、マリアさんの案内のおかげで陽が落ちる前にはシュトラール王国に到着することが出来た。
小さな村出身の私は感嘆の声を上げる。
シュトラール王国は私達の想像を遥かに超えたインパクトがあった。
「い、入り口から大きい……!!」
巨人が出入りするのかっていう程の大きくて真っ白な門。
門のあちらこちらには立派な騎士の石像が彫られている。
門の入り口は四つあり、入り口出口が二つずつあるようだ。
入り口は随分と空いていた。これならすぐに入国できそう。
「そういえばお二人ともシュトラールの入国審査は初めてですか?」
「はい。だからちょっと不安で……」
「ふふ、ハルちゃんなら絶対に大丈夫よ。門の前に白い犬がいるでしょう?」
私は目を凝らす。確かに成人男性の腰ほどの大きさの犬がいた。
「あの犬に噛まれずに門を潜れたらいいのよ。あの犬はその人が悪人か善人かが分かるクーシーという妖精なの」
マリアさんに背中を押される。
衛視の人とクーシーが門に近づく私をじっと見ていた。
う、緊張する……でも、一応聖女だし……噛まれはしないよね?
私は恐る恐る門を潜る──けど。
「ワン!!」
「!?」
──吠えられた!? それってつまり!?
衛視の人が剣を構える!
クーシーが私に襲い掛かってきた!
「きゃああ!!」
「ワンッ! ワンッ!!」
べロリと顔を舐められる。
う、臭い! しかも顔ベタベタ。
でもどうやらクーシーは私を噛むために私に飛び乗ったのではないらしい。
円らな瞳を潤わせて、頭を撫でてと主張していた。
尻尾を凄い大袈裟に振っている。
私は尻餅をつきながら、クーシーの頭を撫でてあげた。
衛視はそんな私に上唇と下唇を限りなく離れさせている。
「お、お前さん、相当善人なんだなぁ……」
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