双子の神秘

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双子の神秘

 まず王国に入国して驚いたのは人が多い事だ。  今視界に入っている人間だけで数百人はいるのでは?  村の人口は全体で百人ちょっとくらいなので、新鮮な気持ち。  そして次に種族。  獣人、リザードマン、ドワーフまで……様々な種族が入り乱れていた。  異種族なんて本の中でしか、見たことなかったのに……!!  人間も建物も、見たことないものばかりで、頭が混乱する。  視界に入ってくる情報の多さにパンクしそうだ。 「私の宿はこちらです~。エマ、ちゃんと店番やっているかしら」 「エマ?」 「私の双子の妹です。職業は栽培士で、お花や植物を育てるのが好きなんですよ」  マリアさんの双子で、お花を育てるのが好き……。  きっとマリアさんに瓜二つでお花を眺めて微笑んでいる天使に違いないだろう。  しかしその時だ。 「マリアちゃん!!」 「あら、お隣の……どうかしたんですか?」  頭皮を晒したおじさんが顔を真っ青にしながらマリアさんの方へ駆けてくる。 「た、大変だ! エマちゃんが宿の客に!!」  おじさんはそれ以上言わずに、ひぃひぃ肩で呼吸をしていた。  マリアさんが「まぁ大変!」と声を上げ、走り出す。  私とミルもそれに続いた。  きっとエマさんは可愛すぎて宿の客に絡まれているのだろう。  いざという時は私がどうにかして助けないと!  そう決めていた。  し か し。 「あぁ!!? もういっぺん言ってみろコラ!! ウチの飯がまずいとかどうとか言ったよなぁ!!? ああん!?」  マリアさんに連れられた場所には確かに宿屋があった。  だけど、その前には──。  マリアさんと瓜二つな女性はいた。  だけど。  その女性は花など眺めてにこにこしているわけでもなく、鬼の形相で客と思われる男の胸倉を掴んで唾を散らせていた。 「な、なんだこの女!! ちょっと揶揄っただけだろ!?」 「ウチを揶揄うとはいい度胸だなおい!!」 「おい女! 客に何しやがる!!」  胸倉を掴まれている男の友人が憤慨したように腕を振り上げる。  もしかして女の人を殴るつもり!!? どうにかしないと!  そう思い走ったが──。 地面が揺れ、私は転ぶ。 「へっ?」  影が差した。  上を見上げると……ワイバーンの上位種であるドラゴンがエマさんを殴ろうとしていた男の服を歯にはさみ、持ち上げているではないか。  ミルも腰が抜けている。 「ひ、ひいい!? ドラゴン!? なんで!?」 「あらあらまぁ、ごめんなさい。つい……()()()を呼んでしまいました」 「お、おと……もだちぃ?」  ドラゴンは吐き出すように男を投げ下ろした。  そしてマリアさんに甘えるように頭を擦り寄せる。 「ぎゅう……」 「あらあら、随分甘えん坊さんを召喚しちゃいましたわね」 「召喚? まさか、マリアさんの職業って……」 「魔法生物を召喚する〝召喚士(サモナー)〟です。だけど調子のいい時と悪い時があって困っているの」 「召喚士!? S級職業(ジョブ)の!?」  つまり……マリアさんってまさか……すごく強いってこと!? 「流石姉貴~! 花育てるだけのウチとは違うな〜」 「エマ、またお客さんに手を出して! いい加減我慢ってものを覚えなさい!」 「はーい」  ドラゴンを召喚する〝召喚士〟のマリアさんと植物を栽培する〝栽培士〟のエマさん。  容姿はそっくりだが、その職業と性格はあべこべだった……。
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