レンヤの誘い

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レンヤの誘い

 もう、何もかもが嫌だった。 「おい、いつまで拗ねてんだよハル」  私はお気に入りの場所である村の外れの双子の木に背を任せ、顔を膝に埋めていた。  隣には何故かレンヤがずっと座っている。  正直今は鬱陶しい。 「どっかいって。こっちこないで」 「……。……あー、……あのさ、なんか、その、ごめんな」 「…………」 「戴書式は俺も天狗になってたしさ。その、なんていうか、調子乗ってしまったといいますか……」 「調子乗っていたら、人の嫌がることしてもいいの?」  弱点をつかれたタイムバードみたいな声を出すレンヤ。 私はため息を吐く。 「もういいから。反省したのは分かったから。とりあえず今は独りにしてよ」 「え、あ……その、その前に一ついいか?」  腕から少し顔を出すと、レンヤの頬がほんのりと赤みがさしていた。 「俺、戦士になっただろ?」 「なに? 嫌味?」 「ち、ちげぇって! 実はその、俺もうすぐシュトラール王国の英雄団(サルバシオン)に入ることになったんだよ」 「えっ!?」  私は思わず腕から飛び出した間抜け面を晒してしまう。  シュトラール王国って大国なのでは!? 私でも知ってるくらいだもん!  しかも英雄団(サルバシオン)って……国の外側、所謂軍事都市を任されるとにかく重要な国立団体ってエリザが言っていたような……。  英雄団をモデルにした冒険譚の読み聞かせをしてもらった時に教えてもらったっけ。  そこで私は一つ、()()()()を思い出した。  ──戴書式に出席したあの鎧の男の人達って、まさか! 「スカウトだよ。シュトラールの占い師が十六年前にこう予言したらしい。『今年パルウス村で産まれた子供の中で邪悪なる王を倒す者がいる』ってね。それで職業が開花する今年の戴書式に団長がここにわざわざ来たわけだ」 「まさか、……邪悪なる王って……」 「前までは戦士とかじゃなくても冒険家にはなれた。でも今はどうだ? 魔物が突然増殖したせいで、強い職業の奴らしか冒険なんて出来ない。その魔物の増殖の原因は“魔王”だと言われている」 「魔族を統べるおっかない骸骨のお面被った人だよね? 身体もこーんなに大きくて、目を合わせただけで人を殺せるとか! シュトラールから注意喚起の為に送られてきた絵は見た。でも、本当にいるの?」 「いるに決まってんだろ。この村がたまたま襲われてないだけだよ。団長が言っていた。そんな魔王を倒すには予言にあった戦士である俺の力が必要だってな。だから、俺は数日後にこの村を出て、団長とシュトラールに行く」  そ、そんな……。  シュトラールの英雄団に入り、魔物を優雅に倒していくレンヤの姿がありありと思い浮かぶ。  対して私は……村人以下の存在……。  今の私とレンヤは天と地ほどの差があるのは歴然だ。 「……っ」 「だからよ、ハル。その……お前がよければなんだけど」 「!」 「俺と一緒にシュトラールに来ねぇか? お前、この村出たいんだろ? 無職のお前一人で旅させるよりその方が安心だしよ」  私は思わずポカンと口を開けたまま、呼吸を忘れる。  レンヤは頬を掻いてそっぽを向いていた。  レンヤの言葉が私の脳みそを反芻して、反芻して……。  次第に頬に熱が帯びる。  ポケットに隠しているレンヤからもらった石の感触をこっそり確かめた。 「……え、あ、その、」 「…………」 「あ、ありが……とう」  私の顔が再度膝に沈む。  レンヤの腕が、私の身体に触れた。  え、な、なななんか、レンヤの身体近づいてきてない?  これ大丈夫なの? いや、レンヤが私のことどうするとかありえないけどさ。  だっていつも私の事「可愛くない」って言ってくるし、態度でかいし、こきつかってくるし……。 「なぁ、ハル。顔上げてくんねぇかな」 「……え、あ……な、なななんで」 「なんでって、お前……察してくれ」  そんなハードル高いことを私に求めるな!  しかしレンヤのその言葉がまるで魔法の呪文だったように、私の顔が恐る恐る上がって……。    そして──。 「レンヤ? ハル? 何してるの? にらめっこ?」 「──!!?」  気付けばエリザが不思議そうに私達の事を見つめていた。  レンヤと私は一瞬で一メートル程離れる。  し、心臓が破裂してしまいそう!  い、いい、今のって、もしかして、もしかして──!? 「二人とも顔あかーい。ねぇねぇ、何があったの?」 「え、あ、えっと、そう、エリザの言う通りだよ! にらめっこ! ね? レンヤ!」 「え!? あ、お、おう! そうそう! だけどこいつの真顔でさえ敵う自信ねぇな俺は~」 「はぁ!? どういう意味よそれ!」  いつものように口喧嘩。  ちょっと安心した。  するとエリザが何かを思い出したようなジェスチャーをする。 「そうそうハル、レンヤのお父さんがハルにお話しがあるって言ってたよ!」 「え? あ、う、うん! すぐに行くよ!」  その場を離れる口実が出来たと私は素早く駆け出した。  表情筋が故障したのか、頬が緩む。    それにしてもルシムさんの話ってなんだろう?
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