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「んねぇええええ、もういいかげん、死のうよぉおおぉおおお!」
理不尽な言葉が僕の六畳一間にこだまし、空間の許容値を超えてパンクすると、そのために窓ガラスがミシッと、聞こえないくらいの悲鳴を上げた。僕はまた始まったな、とため息を吐いた。
「わかった。死にましょう。……なんて言うと思うか。孫正義でも言わねぇよ」
「だぁれだぁ? 『損間 紗代(そんま さよ)』氏って」
「そこに引っかかるなよ」
こいつは出会ったときから、常識が一歩も前に進んでいない。地球についてあまりに知識が乏しすぎる。それはお馬鹿さんというよりも、未知の生命体のレベルに達していた。そして実際、彼女は未知の生命体らしかった。
「んねぇ、どうして死なないの?」
「何も問題が起きてないのに、死のうなんて思うやつがいるか?」
「問題……? それは、ユータがいつもやってる、『イチタスイチハ、ニ』ってゆうの?」
「僕が高校生にもなって、一足す一は二を毎日解いてるとんでもないお馬鹿さんみたいに言うのはやめろ」
彼女は平穏な目をして、小首を傾げる。僕のツッコミはうまく送信できなかったらしい。言葉の意味を伝達する人類の電波塔は、この部屋までカバーできてないようだ。視界の左上に刻印される圏外の文字。会話が繋がらない、コミュニケーション不能地帯。
「問題がないから死なない……。じゃあ、ユータに問題をだせばぇぇんかぁ!」
「ええんかぁじゃないが」
「ユータが、うーん解けないなぁ、解けないなぁってゆうような問題が出たら、死んでくれるんでしょぉ?」
「なるほど……。その言い方だと一理ある」
彼女は突然、手をパンッ、と叩いて、仏を拝むポーズをしながら、その大きな目を、LEDライトの光線よりも眩しく、そして生きているものにしか出せない歓喜のこもった輝きで潤ませる。要するに、
「メーアンだぁ!」
そう確信して、彼女は勝手に満足した。それから走って部屋を出ようとしたが、鍵をかけていた扉に一度頭をぶつけ、いててのポーズでとうとう去っていったのだった。
「悩ましいことだ……」
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