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この頭の中でなにか動く音がする。深夜の雨音ではぬりつぶせない、たしかな、脳髄の気配。ぼくは0.5mmのシャーペンを置いて、立ち上がって、台所へ向かう。冷蔵庫をあけて、お茶を取り出して、コップに注ぐ。真っ暗なリビングへ注ぐその光が途切れると、ぼくは一目散に自分の部屋へ戻った。その動作がなぜだか、とても重苦しく感じて、ぼくはカーテンをより隙間なく閉めるのである。 明日はテストだけれども、けっきょく、ぼくの頭には勉強など入って来ない。たぶんこれから朝まで机に向かったって、結果は変わらないだろう。 この頭の中でなにか邪魔をしてる。数学の公式すら弾きかえすように指示されたなにかが蠢いてる。午前3時の拮抗は謎をきわめていた。虫のように小さく、力強く、だけど捕まえられないで透きとおるような、難しい問題だ。夜明けまではそんなに時間がない。提出物であるワークをやっと終わらせたようなこの頭で、良い成績を残せるはずもない。「日頃の行い」が口癖の、体育教師を思い出した。ぼくは最悪だと思った。 やっとコップに口をつけて、麦茶を飲む。ほとんど夏に近いこの夜なのに、いままでのような清涼感はなかった。喉には、呪いのようなもやもやした潤いがわずかに残るだけだ。もう「いっそ眠って、早朝に起きて勉強をしようか」「いいや、そんなんじゃダメだ。その方法はこれまでも失敗してきただろ」ぼくの脳内で繰り広げられる論争。その中に知らない声が割り込んでくる。「わたし、あなたのことが好きなんです」知らない女の子の声だった。
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