3時に雨が降る町で

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 僕の住むこの町には午後3時決まってこの時間に雨が降る。僕はこの町にしか住んだことはないし、他の町のことなんて一つも知らないからこの町以外がどうなのかは分からないが僕の町には雨が降る。  この世の中には2種類の人間しかいないなどという語り初めで2種類でこの世の中の人間を表すことがあるが、この世の中には本当に2種類の人間しかいない。それは雨に濡れていい人間と濡れてはいけない人間だ。僕は雨に濡れてはいけない人間だ。午後3時この時間が近づくにつれて左手につけている時計を確認する回数が徐々に増えていく。  午後3時から雨が止むまでの時間彼女はどんな顔をしているのだろうか。僕はその顔を知らない。雨が降るまでの時間笑顔で語りかけてくれる彼女の顔は心はそのままなのだろうか。3時が過ぎ、僕が家から出ることを許されるまでの時間僕たちではないもう1種類の人間達は何をしているのか、シンプルすぎる疑問の中に謎の不安感と漠然とした興味が僕の中に混在していた。  「何をしているの」この疑問を彼女に問いかけると彼女はきっと答えてくれるだろう。ただその答えを僕は自分の中にそのままに落とし込むことはできないだろう。だって僕はその時間を知らないのだから。彼女が嘘をついているだとか、そういう疑いではなく、事実として雨が降っている時間、この時間の彼女を僕は知らない。  雨が激しく打ち付ける窓から外を見ていると午後3時まで過ごした時間の全てを洗い流される。雨が止み、次に雨が降るまでの時間をなかったものにされている気分に陥ってしまう。しばらく眺め、洗い流されきると次に雨水がバケツを徐々にいっぱいにしていくように僕の中に黒い気持ちが溜まっていく。雨が止み、彼女に会う。僕の中に溜まっている黒い気持ちを知らない彼女は昨日会話していた時と同じように笑顔で語りかけてくれる。いっそ嘘であっても、自分の中にそのままに落とし込めないとしても聞いてしまおうか、「何をしているの」と。僕は知っている。僕はその疑問を聞かないまま、知らないままにこの先を過ごし雨が止むと笑顔で語りかけてくれる彼女とその時間を過ごしていくことを。彼女が雨降るその時間どのような顔で心でいるのかを知らないそのままで。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!