君を食べたい

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「わ、君、大丈夫?」 道端で倒れ込んだ私に駆け寄り、心配そうに声をかけてきたのは青年だった。 柔らかな栗色の髪の毛に淡いグリーンの瞳。 親切な彼の介抱おかげですぐに元気になった。 「助かったわ、ありがとう」 「急に倒れるから驚いたよ」 良かった、と彼が安心したように息をつく。 私の演技とも知らず、能天気な男だ。 「……実はしばらく食べてなくて、そのせいかもしれないわ」 「それは大変だ。君が良ければ何かご馳走するよ」 ありがとう。お言葉に甘えるわ。そう言って笑った。 ここまでが全て私の計画通りだ。 男はしっかりとした体格をしている。貧相でもなければ太っているわけでもない。しなやかで美しい筋肉が十分についている。 --美味しそう。 しばらく食べていないと言ったのは本当だ。この何日間か、人間の肉にはありつけていない。 そう、私は人間を殺して食らうグールなのだ。 「大したものじゃないけど、たくさん食べて」 彼に案内されて自宅へとやってきた。 机にはスープとパンとサラダが並んでいる。 決して余裕のある生活ではないのだろう。それでもこうして人に施すだけの優しさがある。 本当に、本当に、気のいい親切な男なのだろう。 ますます食うのが楽しみになってきた……-- 目が覚めるとベッドの上に縛り付けられていた。 身動きの取れない状態に理解が追いつかない。 私は眠っていたのだろうか?いつから?どうして? 暗がりの中に人影があるのに気が付いた。あの男だ。 「助けて……」 そう声を上げてから男が刃物を持っているのに気付いた。 真っ赤な血で汚れたナイフを持って笑っている。 「目が覚めたの?薬が弱かったかな?」 悲鳴を上げて暴れるが、きつい拘束のせいで逃げ出せない。 「僕、グールの肉ってまだ食べたことなかったんだ!」 ナイフを振り下ろしながら彼がそんなことを言っていた。 嗚呼、赤いあかいあかい紅い-- カニバリズムとグール
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