クレイジーな告白

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クレイジーな告白

週も半ば。 仕事帰り、私はレンタルビデオ店に寄った。 見終わったDVDを返却し、新たな作品を探す。 新作が多く入荷していて、スクリーンで見逃した映画を2本買い物かごに入れた。 店内を一周してふと、太賀くんの姿を無意識に探していたことに気付く。 今日はいないか…。 その日太賀くんは現れず、ひとり帰路についた。 その週の週末、絵見と会う約束をしていた。 定期的に会う約束をしている私達は、 遊ぶ場所を交互に決めることにしている。 今回は私の番で、街まで出ようか迷ったが 結局家から近い「ふじ鳥」で飲むことにした。 「へ〜、そんなことがあったんだ。」 会わない間にあった色々な出来事を報告すると、絵見はしみじみとそう言った。 「わたるもさー、ほんっと鈍感だよね。こんなに長い時間一緒に過ごしてきたのに、まひるの気持ちに気付かないなんて。」 「鈍感すぎて嫌になるよ、ほんと。でも、わたるお兄ちゃんから今幸せにしてるってことが聞けて、私今度こそちゃんと諦められる気がしてるんだよね。」 「そっか…。でも、良かったんじゃない? ちゃんと目を向けたら世の中にはわたるなんかよりもっといい男いっぱいいるんだから。」 そんな会話を絵見と繰り広げていると、ガラガラと音を立てて新たな客が入店してきた。 「あ、太賀」 絵見の見つめる先を追って私も振り向く。 「…何だ、お前らもいたのか」 見ると、入り口に太賀くんが立っていた。 そして、彼はこの前とは打ってかわり私の席の隣に座る。 「なに常連になってんのよ、私の行きつけの店で」 と不満そうに言う絵見に 「2回目だよ、お前らと来てから」 と太賀くんは答える。 「休みの日のこの時間から1人で飲みに来るなんて、彼女と何かあったー?」 とからかうように絵見が言うと、太賀くんが一瞬固まる。 どうやら図星を突いてしまったようだ。 わかりやすい…。 私の隣に座ったのも、デリカシーのない絵見から少しでも逃げるためだろう。 「おじさん、ビール1つ。」 と言って絵見の問いには答えず、被っていたキャップを壁のフックに掛ける。 明らかに気落ちした様子の太賀くんに声を掛けられずにいると、 「何? 振られた?」 と言って、絵見がずけずけと踏み込む。 「ちょっと。」 と絵見をたしなめ、恐る恐る隣を見ると 太賀くんはおじさんから渡されたビールをぐいっと一口飲み、 「…そうだよ。」 と答えた。 冗談で聞いたつもりだったらしい絵見は予想外の返事に絶句し、沈黙が流れる。 「え…何で?」 と絵見が気まずそうに切り出すと太賀くんは、 「他に好きな男ができたって…」 と言い、もう一口ビールをすすり、こちらには視線を向けようともしない。 あんなに仲良さそうだったのに…? お祭りで会った日から1週間しか経っていない。 これから振ろうとしている人と、普通手なんて繋げるものなのか…? 私は太賀くんの“元”カノの取った行動に理解が追いつかない。 「彼女とはあれから会ったの?」 という絵見の問いに、太賀くんは首を振る。 「合わせる顔ないってさ」 と自重気味に笑い、またビールを一口すする。 「まぁ確かに、あの彼女なら言いそうなことだわ」 と、絵見は小声で私に言ってくる。 気まずさに耐えかね、絵見はおじさんに 「おじさん、“アレ”持ってきて」 と耳打ちする。 「“アレ”ね」 と言って、おじさんは奥の部屋に行ってしまった。 戻ってきたおじさんが手にしていたものを見て察しがついた私は絵見と2人、顔を見合わせて笑う。 絵見は“それ”をおじさんから受け取り、 「はい、これ。」 と言って、太賀くんへと差し出した。
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