涙を止める方法

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自転車で一緒に帰るのは初めてだった。 通りすがる人はいなかったので、2人並んでゆっくりと自転車を漕ぐ。 「太賀くんの彼女、すごい美人だね。口説き落とすの大変だったでしょ。」 と聞くと、 「まあな」 と太賀くんは笑って答えた。 「そう言えば、坂下は? 少しは失恋の傷癒えたの?」 と聞かれたので 「うーん…。まだ全然だけど、元気は少しずつ取り戻してる感じかな」 と答える。 「でも、忘れるにはやっぱ、時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないかなと思ってる」 と言うと、 太賀くんはそうかなと言って、 「俺はそういう…好きだった人を忘れるのとかって、時間が解決してくれるとは思えないな。むしろ逆で、時間が経てば経つほど相手を美化していって、その人の幻想の姿に執着していくだけだと思う。」 と続けた。 いつになく真剣な表情で話す太賀くんの言葉を意外に思いながらも、言わんとすることは理解できた。 「確かに…そうかも。」 と肯定したうえで、 「でも何かそれ、太賀くんに言われるとちょっとイラっとする」 と笑って言うと、 「え!? 何でだよ…! 俺、今いいこといったろ?」 と、いつもの調子の太賀くんに戻った。 「まぁでも本当に、ただ時間に流されるよりも次の恋に進んだ方がいいと思うよ、俺は。坂下は可愛いんだし、探せばいくらでも男なんて見つかるから。」 と言って少し照れ臭そうにしている太賀くんを見て、急に褒められた私も照れてしまう。 自転車だとあっという間に家まで着いた。 「じゃあ、ここで」 と言って自転車から降りる私を、いつものように家に入るまで見送ろうとする太賀くんに 「今日は私が見送るよ」 と言った。 「え…? 何で?」 と不思議そうにする太賀くんに 「何となく」 と笑って答え、なおも動こうとしない太賀くんをいいからいいからと背中を押して促した。 勢いに押され、 太賀くんは仕方なさそうに 「じゃあ、行くわ」 と言ってペダルを漕ぎ出す。 自転車に乗り前を向いたまま手を振る太賀くんに手を振り返して、姿が見えなくなるまで私はその背中を見送っていた。
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