16年の終止符

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仕事から帰ってきたおじさんも加わり、 わたるお兄ちゃんの実家での夕食会はスタートした。 「あれ、達郎さんは?」 と父の不在の理由を聞くおじさんに 「今日は会社の送別会ですって。タイミング悪いわよね〜」 と答える母。 「そっか〜、一緒に飲みたかったなぁ。」 と残念がるおじさんに 「おじさん、今日は私が付き合うよ」 と言って私は、おじさんのグラスにビールを注ぎ足す。 「お、頼もしいね〜」 と言いながらビールをごくごくと飲み、 「まひるちゃんの注いでくれたビールは美味い!」 と冗談を言うおじさんに負けじと、私も目の前にあるビールのグラスを空けた。 「ちょっとあんた、程々にしなさいよ。す〜ぐ酔っ払うんだから。」 と心配する母を尻目に、大丈夫大丈夫と言っておじさんからのお酌を受ける。 「美玲さんも、遠慮なく飲んでって!」 と言うおじさんの誘いを 「この後運転があるので…」と美玲さんは丁重に断る。 そして彼女は、 「わたるさんは飲んでね。」 と、お兄ちゃんのグラスにビールを注いだ。 「美玲さん、たまにはいいのよ、わたるに運転させたって。」 とおばさんが言う。 「いいんです。わたるさんが楽しく飲んでくれれば、私はそれで十分ですから。」 「ほんと、いいのかしら。こんな素敵なお嫁さんもらっちゃって!」 楽しそうに話す2人の姿を横目に見ながら、私はビールをごくごくと喉に流し込んだ。 本当に大丈夫? と心配そうな母の視線に気付きながらも、飲み相手ができて嬉しそうなおじさんのお酌をその後も受け続けた。 数時間後、 案の定具合の悪くなった私は外に出た。 玄関の前に座り込み、しばらく夜気に触れていると少し落ち着いてきた。 その時、ガチャと扉が開いてわたるお兄ちゃんが顔を覗かせた。 「大丈夫か?」 と気にかけてくれるお兄ちゃんに 「大丈夫」と答えて立ち上がった。 煙草に火を付け、吸い始めたお兄ちゃんに 「何だ、心配で見にきてくれたんじゃなかったの。」 と言うと、 「心配で見にきたに決まってるだろ」 と、冗談とも本気とも取れない感じで返された。 慣れた手つきで煙草を加える姿に、つい見惚れてしまう。 お兄ちゃん、少し太ったかな? 元々細いから気になる程ではないけど、 これが世に言う幸せ太りってやつか… なんて考えていると、ふいにお兄ちゃんから 「まひる、彼氏できた?」 と聞かれた。 「何?突然」 と驚きつつ、 「できてないよ、残念ながら。」 と笑って答えると、お兄ちゃんもふっと笑った。 「あ、今鼻で笑ったでしょー」と怒ると いや、とわたるお兄ちゃんは言い、 「まひるの周りにいる男は馬鹿だなーと思って。俺の可愛い“妹”をほっとくなんて」 と続け、煙草を持っていない方の手で私の頭をポンと触った。 その言葉、そっくりそのままお兄ちゃんに言ってやりたいよ… 「帰らなくていいの? 明日仕事でしょ?」 と照れ隠しに言う私にお兄ちゃんは、 「うん。もう少しで帰るけど “あいつ”、今片付け手伝ってるから。」 と答えながら煙草の煙をふかす。 「え、本当? 私も手伝わないと。」 と中に戻ろうとすると、お兄ちゃんに腕を掴まれた。 「いいんじゃない? 任せとけば。」 と言うと同時に私の腕を離し、煙草の火を消した。 そして、お兄ちゃんは唐突な提案をしてきた。 「ちょっと散歩しない?」
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