16年の終止符

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初夏とは言え、夜はまだ寒い。 わたるお兄ちゃんの提案に乗った私は、 公園に辿り着くと迷わずブランコに腰掛けた。 「お前、昔からブランコ好きだなー」 とお兄ちゃんは笑って言い、自分も隣のブランコに腰掛けた。 「小さい頃はよく一緒に公園で遊んだよね」 と言って、私はブランコを漕ぎ始めた。 「あぁ、懐かしいな。」 と笑い、お兄ちゃんは遠い目をする。 「中学の時はさ、絵見と3人で花火もしたよね。近隣の人に通報されたけど…」 「あったなぁ、そんなことも。」 「ねぇお兄ちゃん、覚えてる?」 「ん?」 私が中1で、お兄ちゃんが高1だった時のことー。 同じ中高一貫校に通っていた私たちは、 陸上部だったお兄ちゃんの朝練がない日は一緒に登校したり、校内で顔を合わせる機会も多かった。 ある時、私は教室で塚本という女子の先輩に呼び出された。 お兄ちゃんに想いを寄せていた彼女は、私たちが親しくしているのが気に入らなかったようで、仲間たちと一緒にお兄ちゃんに近づくなと脅してきた。 それはできないと伝えると、そこから私への嫌がらせが始まった。 上履きや持ち物が無くなることは日常茶飯事、通りすがりに悪口を言われたり根も葉もない悪い噂を立てられたりと、次第に当て付けはエスカレートしていった。 当時の私は復讐されるのが怖くて、お兄ちゃんに打ち明けることもできず、それどころかお兄ちゃんを避けるようになっていた。 それでも完全にお兄ちゃんを無視することはできず、私は再び塚本さんたちに呼び出された。 彼女らに責められ、胸ぐらを掴まれていたところにお兄ちゃんが止めに入ってくれたおかげで、大事には至らなかった。 私の素っ気ない態度を不審に感じていたお兄ちゃんは、その理由を当時から私の親友であり相談相手だった絵見に聞き出してすべてを知り、塚本さんの行動を注視していたのだ。 「あの時お兄ちゃん、塚本さんに言ってくれたこと、覚えてる?」 「え? 覚えてないなぁ。」 わたるお兄ちゃんは、わざとらしく首をひねる。 「“俺のまひるに手出すなよ”って」 「それを言うなよ、恥ずかしいから」 と言って、お兄ちゃんは片手で自分の顔を覆い隠す。 「覚えてるんじゃん」 「かっこつけてたな〜、あの時の俺」 「キザだよね〜、ドラマの見過ぎ。しかもそれ、恋人に言うやつだし」 わざと意地悪く言うとお兄ちゃんはうなだれて、本気で照れているようだった。 「でも…嬉しかったよ。私ってお兄ちゃんのものだったんだな〜と思って。おかげで嫌がらせもなくなったわけだし」 「あんまり年上をからかうなよな」 と言いながらも、お兄ちゃんは笑った。
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