好きな人の結婚

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新調したドレスを着て、いつもより念入りにまつ毛をあげて、似合わない香水を身にまとった。 髪を結うのは得意で、お呼ばれ用に自分でアレンジした。 「まひるー、お母さん美容室寄るから先行くよー。あとで会場でねー。」 階下から聞こえる母の声に適当に返事をして、鏡に映る自分を見つめた。 わたるお兄ちゃんとは家が隣同士で、私が幼稚園のときに引っ越してきて以来の仲だった。 年は26歳の私より3つ上の29歳。 昔から兄妹みたいとよく互いの親からも言われていたし、お兄ちゃんも私のことを妹のようにしか見ていなかったんだろう。 そう、想っていたのは私だけ。 鏡に映った自分は自信なさげにこちらを見つめ返している。 手のひらで頬をパンパンッと叩いた。 「 堂々としてないと…!」 少しでも素敵に見えるように。 わたるお兄ちゃんにも、相手の女性にも。 教会に着くと母が「こっちこっち」と手を振った。 「もー、遅かったじゃない。何やってたのー? もう挙式始まっちゃうでしょー」 「ごめんごめん、ちょっと道に迷っちゃって」 「迷ったって、あんたここの会場2回目でしょ? みっちゃんの結婚式のときだってここだったんだから」 「みっちゃんの結婚式って、もう2年も前でしょ。覚えてないよ、そんな前のこと。いいからもう中入ろう」 文句を言う母を促し挙式会場に入った。 大きなステンドガラスが素敵な会場。 落ち着かなくてソワソワしていると、パイプオルガンの演奏とともに新郎、わたるお兄ちゃんが入場してきた。 友人席からの「わたる、良かったな!」という軽い野次に苦笑しながら歩いてくるタキシード姿のわたるお兄ちゃんは、いつもの何倍もかっこよく見えた。 そして父親にエスコートされて新婦の登場。初めて見る相手の女性。 ベールに隠されていてもわかる、悔しいけど美人。 さすがわたるお兄ちゃんの恋人、じゃなくて奥さんだ。 大人っぽくって、歩く姿もどこか色っぽくて、私とは対照的だった。 バージンロードの真ん中当たりで新郎に受け渡され、ゆっくり前へと歩き出す2人。 賛歌など歌う気にもなれない。 指輪の交換に、誓いのキス。 見たくないものには目を伏せた。 早く1人になって泣きたかった。 教会の外で行われたフラワーシャワー。 たくさんの人に祝福されて嬉しそうな2人の笑顔が眩しかった。 笑わなきゃと想っても頰が引きつっているのが自分でもわかる。 腕を組んでゆっくりと階段を降りてくる2人。 そして私の目の前まで来たとき、わたるお兄ちゃんと目が合った。 今まで見たことないくらい、すごく幸せそうな顔。 涙が溢れそうになるのをこらえ、口の端をできるだけ上げて 「わたるお兄ちゃん、おめでと」 と、花のシャワーを浴びせた。 わたるお兄ちゃんは 「ありがとな、まひる」 と言い、お嫁さんもこっちを見て幸せそうに微笑みながら会釈した。 そしてわたるお兄ちゃんは、私の前を通り過ぎていく。 あの瞬間、私はちゃんと笑えてただろうか。 心の声を口にしてしまうのを抑えるので精一杯だった。 “わたるお兄ちゃん、行かないで”
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