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私はブランコを漕いでいた足を止め、
「お兄ちゃん、今幸せ?」
と聞いた。
「何だよ、急に」
と笑うお兄ちゃんに、
「幸せ?」ともう一度聞いた。
何でこんなこと聞いたのか、自分でもよくわからない。
でも、確かめずにはいられなかった。
笑って答えをはぐらかそうとしていたお兄ちゃんは、自分を見つめる真っ直ぐな視線に気付くと観念したように、
「あぁ、幸せだよ」
と答えた。
「本当に?」
「本当」
そう答えたお兄ちゃんの顔は真剣そのものだった。
「…そっか、良かった」
私はお兄ちゃんから顔を背けた。
肩が震える。
「まひる、どした?」
と聞くお兄ちゃんに、私は答えられない。
ただならぬ様子に、お兄ちゃんは私の正面に来てしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
「お前、泣いてんのか」
「…泣いてない」
顔を下に向けたまま視線だけを前に向けると、お兄ちゃんが心配そうに眉をひそめている。
「どうしたんだよ…。」
そんな困った顔、見せないでよ…。
「…嬉しいんだよ」
「え?」
「だから、嬉しいの…。小さい頃から、家族みたいに一緒に育ってきたお兄ちゃんが…あんなに素敵な奥さんもらってさ…嬉しくないわけないじゃん。私は…妹なんだから。」
私は顔を上げ、無理やり笑った。
そうでもしないと、ごまかせない気がした。
ほんとはこんなぐしゃぐしゃな顔、見せたくなかったけれど。
引きつった笑みを浮かべながらも、涙が溢れ出て止まらない私に、
「そんなことで泣くなよ〜」
と言って、お兄ちゃんは笑った。
「でもありがとな、まひる」
そう言ってお兄ちゃんは私の頭に手を置き、
「お前も幸せになれよ」
と満面の笑みを浮かべ、髪をくしゃくしゃにした。
「やめてよ、犬じゃないんだから…」
言いたくても言えない。
だから、心の中で強く思う。
好きだったよ、わたるお兄ちゃん。
「また何かあったらいつでも俺に言えよ」
「…うん」
本当はわかってた。
もうそんなこと、出来ないんだって。
お兄ちゃんの前で泣くのも、
もうこれが最後だよ。
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