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その後、お兄ちゃんの実家には戻らず、私は自宅に帰った。
泣いたせいでメイクはボロボロに崩れ、さすがに美玲さんやおじさんおばさん、母にも顔を見せられる状態ではなかったので、お兄ちゃんには酔っ払って具合が悪いから自分の部屋に戻ったと嘘をついてもらった。
「まったくあの娘は。だから程々にしなさいって言ったのに」
と、文句タラタラの母の顔が目に浮かぶ。
でももう何でも良かった。
私の16年は何だったんだろう。
心にぽっかり空いた穴はさらに広がり、塞がることなど不可能に思えた。
私は殆どしゃくり上げていた。
鼻の奥がツンとして痛い。
自分の思ったタイミングで息が吸えなくて苦しい。
こんな子どものように泣く自分が可笑しくて、惨めだった。
お兄ちゃんはきっと、自分のことを想って私がこんなに泣いてるなんて知らないんだろうな。
私は呼吸を落ち着かせるために枕に顔を押し付け、喉を閉めてうぅぅと低く唸った。
次から次へと溢れ出る涙。
嗚咽は止まらなかったが、吐けないのはわかっていたのでトイレには行かなかった。
しばらくそんな状態でいたが、これ以上は本当に頭が割れてしまいそうだったので、私は泣き止まなければいけなかった。
何も考えない。
無になる。
幾度となくそうやって涙を止めてきただろう。
顔を押し付けていた枕には涙とマスカラ、鼻水が滲んでいる。
汚い。
ボロボロだ、私は。
二日酔いの朝みたいな気持ち悪さと頭痛。
今夜は眠れそうになかった。
寝転がったまま視線を泳がせていると、貸出バッグに入ったまま机に置かれたDVDが目に入った。
太賀くんが勧めてくれた映画は何だっただろう。
そう言えば、タイトルも確認していない。
プレイヤーにDVDを入れ、再生ボタンを押す。
ベッドで横になり、チャンネルで早送りボタンを押して予告動画を飛ばした。
本編が始まり、画面をしばらく見つめていると
「Mr.ショーン」というタイトルのその映画はどうやらコメディのようだった。
コメディか、
全然笑う気分じゃないんだけどな。
それでも、再生を止める気力もなくそのまま流していると、ふと笑いがこみ上げてきた。
そして気が付くと、私は声に出して笑っていた。
主人公のおどけた表情や動き、物語の心地の良いくだらなさ、それに思い切り泣いた後のヤケクソ感が合わさり、段々と面白くなってきてしまった。
太賀くん、私のこと励ましてるつもりかな。自分だって昨日元気なかったくせに…。
そんなふうに思いながらも私は、太賀くんの何気なしの優しさを感じずにはいられなかった。
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