クレイジーな告白

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絵見が差し出したのは、 マイクとデンモク。 「いい、そんな気分じゃないから」 と言って、歌うのを拒む太賀くんに 「あ、そう? じゃあ先歌っちゃうよ〜」 と言って絵見は自分の曲を入れる。 「私、失恋ソングとか辛気臭い歌は歌わないから」 と言って、絵見が入れたのは「群青日和」。 東京事変は絵見の十八番で、本当に上手に歌いあげるから私は思わずノリノリで手拍子してしまう。 間奏の間に 「まひるも入れなよ」 と、絵見から渡されたデンモクを操作しながら 色々と迷った挙句、aikoの「花火」を入れた。 ほろ酔い加減の私は、曲が始まると席から立ち上がり、 aikoになりきってくるくると踊りながら歌った。 他に客がいないからやりたい放題だ。 笑いながらその様子を見ていた絵見も、続けて曲を入れる。 ディスプレイに現れた「AM11:00」の文字を見て 私は思わず絵見にグータッチを求め、絵見もそれに応えた。 HYの「AM11:00」は私たちの定番のデュエット曲で、 絵見は男性パート、私が女性パートを歌うことに決まっている。 サビ部分で息を合わせてハモる私たちに、おじさんもギターを弾くマネをしながら乗ってくる。 間奏が来るたびにお酒をじゃんじゃん飲んでいた私たちは、だいぶ高揚していた。 太賀くんは暫く不機嫌な様子でひとり飲んでいたが、 楽しそうに盛り上がる私たちを見て火が付いたのか 「貸して」 と言って、私からデンモクを取り上げた。 「やれやれ、やっと歌う気になったか」 と、満足気に絵見が呟く。 最初渋っていた割にすぐさま彼が選んだ曲は ザ・ブルーハーツの「人にやさしく」だった。 絵見が「お〜!!」と盛り上げる声に合わせて、 私も拍手する。 太賀くんは立ち上がり、 曲が始まると思い切り息を吸い込み、 最初のフレーズを歌い出した。 私と絵見は肩を組み、 すかさず「ナーナーナーナーナーナーナー♩」 と体を左右に揺らしながら合いの手を入れる。 失恋の傷を振り切るように、激しく歌う太賀くんの姿はどこか痛々しくて、 つい一週間前の私を見ているようだった。 誰かを想うことは、 どうしてこんなに苦しいんだろうね。 私は、太賀くんの姿に自分を重ねながら サビが来るたびに現れる応援のフレーズを 彼の歌声に被せて何度も、力強く叫んだ。
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