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予期していなかった私からの告白に驚き、固まっている太賀くん。
「え…っと」
とだけ言って、太賀くんはまた黙った。
やってしまった…。
永遠のような沈黙。
実際には数秒しか経っていないだろうけど、
さっきまでの酔いがさっと引いていく。
「本気で言ってる?」
と聞いてくる太賀くん。
どう答えるべきか。
今なら冗談の一言で引き返せる。
けど…
「…冗談で言うと思う?」
私は腹を括った。
すると、太賀くんは考え込むように
顔の半分をてのひらで覆った。
明らかに返事に困っている彼の様子に、
どんどん鼓動が早くなっていく。
ドクン、ドクンと
こめかみに血液が走るのを感じた。
「坂下は…俺のこと、好きなの?」
「好きじゃないよ、全然…!」
太賀くんの純粋な疑問に、口が勝手に答えた。
まさかの即答に、太賀くんも再び固まっている。
「でも、でもね」
私は弁解するように、言葉を続けた。
「こんなこと言ったら怒ると思うけど、太賀くんが彼女と別れたって聞いた時、辛いだろうなと思いながらも、心の中でガッツポーズしてる自分もいて…別に好きとかではないんだけど。」
私は最後の言葉を強調して言った。
「ほら、太賀くんも言ってたでしょ? 好きだった人を忘れるのに時間は解決してくれないって、次の恋に進んだ方がいいって…。だから、お互いに失恋したばっかりだけど私達…付き合ってみるってのも…ありなんじゃないかと思って…。」
言っているうちに、自分がめちゃくちゃな理屈を並べていることに気付く。
どうしよう…
もう取り返しつかない。
太賀くんの答えに全てを委ねるしかなかった。
太賀くんは暫く黙っていたが、
いきなりふっと笑って
「何だよ、それ。」と言い、
「坂下ってさ、バカ正直っていうか何ていうか…。普通、こういう時に全然好きじゃないとか言うか? 嘘でも好きとか、せめて好きになりそうとか、言うだろ普通。全然嬉しくないんだよ、そんなの…。」
と吐き捨てるように続けた。
顔は笑っているけど、
内心怒っているのかもしれない。
言葉の節々にトゲを感じた。
「ごめん…。」
太賀くんの顔を見るのが怖くて、思わず俯く。
「けど、」
けど…?
まだ終わっていなかった。
私はもう一度視線を上げ、
続きの言葉を待った。
「…逆に良かったのかもしれないな。もし好きとか言われてたら、正直その気持ちに応えられる自信なかったと思うから…。俺はいいと思うよ。」
へ…?
それって…。
「付き合おっか」
視線を落としたまま言う太賀くんに、私は
「へ…?」
と口に出して聞き返していた。
「だから、」
今度は私の目をしっかりと見て、
太賀くんは言った。
「付き合おっか、俺たち。」
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