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家に帰ってから部屋でドレスを脱ぎ捨て、即行でシャワーを浴びた。
ワックスでカピカピになった髪も、いつもより濃いめの化粧も涙も、全部全部洗い流したかった。
髪を乾かしてパーカーとジーンズに身を包む。
ドライヤーを当てていたせいで暑い。
汗で首に髪が張り付くのが嫌で、頭の上で団子にしてまとめる。
今日は疲れた。1日中仕事してたみたいな疲労。
胸が苦しくて、外の空気を吸いたくなった。
「お母さん、ハルの散歩行ってくるね。」
「えーほんと? 珍しいわね。まあ、でもありがと」
こういうとき、愛犬は使える。
普段私がハルを散歩に連れて行くことはほとんどないから珍しがられるけど、外に出る上手い口実が作れた。
近所の公園は昼間は子どもで賑わうが、夕方になるとほとんど誰もいなくなる。
ハルを引っ張りながら、ブランコに腰掛ける。
こういうセンチメンタルな気分の時にブランコに乗りたくなるのは何でなんだろう。
ドラマの影響?
はて、それは何ていうドラマだったっけ。
今日の披露宴でのこと。
おじさんとおばさん(わたるお兄ちゃんの両親)が私の座っているテーブルまで挨拶に来たとき、おばさんはこう言った。
「まひるちゃん、今日は来てくれてありがとね。まひるちゃんはわたるのこと、本当の兄のように慕ってくれてたから、少し寂しいんじゃない? わたるも今まで何人か彼女ができたことはあったけど、本当のこと言うとおばさん、いつかまひるちゃんがお嫁さんに来てくれるんじゃないかなと思ってたのよ」
「やだなぁ、おばさん。まさかですよ」
どうしてそんなことが言えるんだろう。
そんな冗談、笑える気分でもないのに。
私だってわたるお兄ちゃんのお嫁さんに、なれるものならなりたかった。
退屈そうにしているハルを抱き上げ、膝に乗せた。
外気に触れ、湯冷めした体を温めようにハルを抱きすくめた。
「ハルはあったかいね」
こういうときに抱き締められる存在がいるのは本当にありがたいと思う。
式の最中は1人になりたくてしょうがなかったのに、いざ1人になると誰かにそばにいてほしかった。
スマホの着信音が鳴る。
親友の絵見からのメッセージ。
「暇でしょ? 飲み行こ♩」
お気楽な文面に思わず笑ってしまった。
タイミング最高だね、さすが親友と思いながら、私はブランコから立ち上がった。
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