君だけを

恋人がいる生活

太賀くんとの交際をスタートして一週間弱。

恋人同士になったとは言え、
今のところ付き合う前と変わったことは特別何もない。

はて、

異性と“付き合う”というのはどういうことだったろうか。

毎日連絡を取り合うこと？

デートをすること？

連絡ならあの電話以降、一度も来ていないし
もちろんデートの約束もしていない。

自分から連絡しようかとも思ったが、
「また連絡する」と言われていたことを思い出し、
律儀に待っているのだけど。

何だろう…。

お互いに好き同士ではないからか、
すごくやりにくい。

絵見に相談できたらいいのだけれど、
普段ならありえない私の大胆な行動について話したら、
長年の親友はどんな顔をするだろうか。

想像しただけで気恥ずかくて、
まだ秘密にしておきたかった。

仕方ない。
たいていのことは、ネットに答えが書いてあるはず。

私はまた、スマホの検索エンジンを頼る。

“彼氏 連絡来ない”

検索結果からめぼしい記事をクリックしていく。

仕事が忙しい

とか、

連絡がマメな人じゃない

とか、

そもそも私に興味ない

とか、

連絡が来ない原因は何となくわかったものの
この状況を打破する方法は一向に見つからなかった。

検索キーワードを変えたりして
一生懸命答え探しをしていると、

「坂下さん、さっきから険しい顔してどうしたの？」
と背後から急に話しかけられ、慌てたせいでスマホを落としそうになる。

振り向くと、部長が心配そうにこちらを見下ろしていた。

「…部長。な、何でもありません…。」

今は会社の昼休みで、ここが事務所だということをすっかり忘れていた。

「そう、ならいいけど。」
と言って、部長は自分のデスクに戻っていく。

会社で何をやってるんだ、私は…

と、自分にツッコミを入れ、スマホをカバンにしまい込んだ。