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私の”失恋慰め会”の後、すっかり暗くなった夜道を太賀くんと歩いた。
絵見の家は店から30秒で着く距離にあるから、すぐに太賀くんと2人きりになってしまった。
さっきまで3人でたわいもない話で盛り上がったけど、絵見がいないと少し気まずい。
何を話そうか考えていると、
「今、何話そうか一生懸命考えてない?」
と半歩先を歩いていた太賀くんが振り返って言った。
「え…もしかして、太賀くん超能力者?」
冗談交じりに聞くと、太賀くんはぷっと吹き出して、
「いや、俺もそうだから」
と言って微笑んだ。
そっか、太賀くんもそうなんだ…。
そう思ったら少し安心した。
「なんか、2人になると気まずいね」
「さっきあんなに盛り上がってたのにな」
2人顔を見合わせて笑った。
お互いに気まずい心境を吐露したことで、肩の力が抜けた。
「でも俺、妙に納得したよ。坂下がずっと片思いしてる相手がいたってこと」
「え? 何で?」
「なんていうか、高校の時、坂下は同じクラスとかの男子には興味ないって感じだったから。だから当時水田と坂下が付き合ってるって聞いた時も何か違和感あったっていうか」
「えー? 私、なんかそんな嫌な感じの奴だった?」
笑って答えながらも、他の人から見た自分がそんな風に映ってたいたことを意外に思った。
別に嫌な感じとかはなかったけど、と太賀くんは言い、
「ほら、あの時ってみんな思春期じゃん。他の女子はさ、ていうか男子もだけど、異性に興味津々なの隠してるようで隠せてない感じっていうか…。うまく言えないけど、坂下は何かそういうのとは違って見えたんだよな…」
と続けた。
「…へぇ〜、そうなんだ。…じゃあ、太賀くんはどうだったの?」
「俺は思春期真っ只中だったけど、異性への関心は隠そうとなんてさらさら思ってなかったけどな!」
と、自分で言って自分で笑う太賀くんにつられてしまう。
今日は泣いたり笑ったり忙しい。
「じゃあ、私の家ここだから」
先に家に到着した私に
「おう。近所だし、たまにはまた3人で飲みに行こうな」
と太賀くんは言い、
「うん」
と私も答える。
「じゃあね」と言い、玄関の前まで行って振り返ると、まだ太賀くんがいた。
手を振りながら、
「ちゃんと中入るまで見送るよ」
と言う太賀くんに
「おやすみ」
と言って手を振り返し、扉を閉めた。
楽しい夜だった。
さっきまでの失恋の痛みが嘘みたいに、
何だか今日はよく眠れそうだった。
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