涙を止める方法

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涙を止める方法

朝目が覚めるといつも泣いていた。 結婚式から1週間弱、私は喪失感とともに暮らしている。 あの日の夜、比較的明るい気持ちでいられたのはお酒が入ってたせいだったんだろうな…。 どんなに気分が晴れなくても仕事には行かなきゃいけない。 新卒から務めているこの会社での事務職ももう4年目。 繁忙期だったら余計なことを考えず仕事に没頭できるのに、あいにく今は閑散期だ。 無理矢理時間を潰し、定時きっかりに退社した。 最近は深夜の映画鑑賞が定着しつつある。 駅近くのレンタルビデオ店で暗い映画ばかり借りては、部屋でひとり思い切り泣いて、この主人公よりは自分の方がまだ幸せ…と思うことで、何とか生きる希望を見出している。 今日もスマホで“暗い 映画”と検索し、ヒットした記事をチェックしながら店内をうろついていると、 「坂下」 と声を掛けられた。 振り返ると、会社帰りと思しきワイシャツ姿の太賀くんがいた。 「太賀くん、何してるの」 「何って、DVD借りようと思って」 「そっか、それもそうだ」 我ながらアホな質問をしてしまい、苦笑する。 「坂下も仕事帰り? いつもこんな早い時間に終わんの?」 「うん、今丁度仕事暇で、ここ1週間くらい毎日定時で帰ってる。あれ? 太賀くんって仕事何してるんだっけ?」 「俺はOA機器の営業。今日はたまたま早く上がれたから、帰って映画でも見ようと思って。…で、坂下は何の映画探してんの?」 「え?! えっと…」 言い淀んでいると、太賀くんは吹き出し、 「もしかして、人に言いにくい映画だった?」 と聞いてくる。 「ち、違うよ」 と慌てて否定するも彼は半笑いのような顔をやめない。 変な誤解を生みたくなかったので、正直に 「…『悲しみの果て』って映画なんだけど」 と白状すると、 「…あぁ、それならそこじゃなくて…」 と言って少し離れたエリアから取ってきてくれた。 「ありがと…。太賀くん、この映画知ってるの?」 「あぁ、うん。その映画に出てる俳優が好きで、試しに観てみただけだけど。でも、俺はどうもそういう暗い感じの映画は苦手だなー」 「…そう。でもいいの、私は暗い方が。とことん落ち込みたい気分だから」 と買い物かごに放り込んだ。 「…あぁ、そっか。今傷心中だっけ」 という彼に、黙って冷たい視線を送ると 「あ、いや…気に障ったならごめん」 と慌てて謝ってきた。 「太賀くんみたいにいつも明るい人にはわからないだろうねー。こういう映画の魅力は。」 「何だよそれ、人を能天気な奴みたいに」 「だってそうでしょ。いつも、ヘラヘラしてるし」 「ヘラヘラって言い方は…、せめてニコニコって言ってくれよ」 「じゃあ太賀くんは? 何の映画借りにきたの?」 太賀くんの買い物かごからDVDケースを引ったくってタイトルを見た。 『太陽に向かって』 いかにも太賀くんが借りそうな映画だった。
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