紫江迷

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 見る人の心のあり方によって様々な色に見える――   昔からそう伝えられている、紫江と呼ばれる河辺の街の路上で、ユウリは暮らしていた。  この国では、ストリートチルドレンは、そう珍しくもない。ただ漠然と、命を繫ぎ止めるように生きる者、犯罪に手を染める者、犯罪の犠牲になる者、ユウリのように,希望を捨てずに生きる者、様々だ。  一週間、何も食べていないなんてざらだ。お腹が空いたり、辛い事があると、ユウリは紫江を見つめた。 「相変わらず灰色の汚い水ね、私にも、この河が美しく見える日が来るかしら……」  ユウリには、紫江が灰色以外に見えた事は、まだない。  ぼんやりしていたユウリの耳に、劈くような笛の音が聞こえた。はっとしてユウリは身を隠す場所を探した。  笛の音は、仲間からの、危険を知らせる合図だった。近頃この地域で、ストリートチルドレンが、連れ去られる事が頻発している。  数人の男がやって来て、甘い言葉で誘い出したり、力ずくで車に押し込められたりもする。  人身売買のブローカーだ。彼らに捕まるとどうなるか、ユウリも理解していた。  河辺の草の茂みに、ユウリは身を潜めた。草の隙間から、大柄で蛇のような目つきの男が、辺りを見渡しているのが見えた。  ユウリは、震えそうになる体に、必死で力を入れて、息を殺した。  男がこちらに近寄って来る。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!