いずれ赤紙

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ちょうどその頃、近隣の丘陵地に工業団地建設の話が持ち上がった。カネモトグループは、車で小一時間程度の場所に、旧陸軍から払い下げを受け、廃材置き場としてしか使用していない広大な雑木林を所有していた。勇一は。同じ大学の出身者も多い工業団地に入る予定の企業に接近を始めた。特に金属加工の新三鋼業は、社長が同じ大学の同窓生であったことから、「早期に契約できれば有利な条件で物件を斡旋できる」と、力を入れて誘致した。何としても工業団地建設計画を現実のものとし、雑木林を宅地として販売したかった。 勇一は手始めに、工業団地にほど近い場所に新築の寮を準備できると持ちかけた。新三鋼業は、自社の鋼材を使うことを条件に寮建設を発注した。カネモトグループは、土地も建材も社内で調達出来るため、採算が取れると見込んでいた。しかし、新三鋼業が指定した建設業者の工事は遅れ、併せて鋼材のコスト高で、寮建設は大幅な赤字となった。しかし、本命は、雑木林の宅地化である。工業団地建設も始まってはいたが、新三鋼業の工事や他の企業の動向は、カネモト側には分からなかった。工業団地の規模がそこそこの物にならなければ、ニュータウン事業の成功も絵に描いた餅になってしまう。カネモトグループは勝負に出ることにした。英雄も、勇一のやることに面白くない部分はあったが、雑木林のニュータウン化が叶えば、膨大な利益が見込める。グループは一丸となって工業団地誘致に取り組むことにした。
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