雷おこし

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 その夜、発熱した本多を除く選手スタッフ全員でミーティングを開いた。ミーティングルームなどない民宿で、宴会用の大広間を使って。 「一点もやらない」  そう言い切ったのはキーパーの増永。 「キャプテンは私が」  倉持の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「うちが本多さんのポジションに入る」  普段飄々としてる広瀬まで。  だったら、菅原と改源が言うべきことは一つ。 「あだしらで点を取ります」 「二人で一点、難しいことはねっす」  チーム最年長だった本多のサッカー人生は日本女子サッカーの歴史そのもの、年齢的にもこれが最後の国際大会になるだろう。 「本多さんを、ワールドカップさ連れてぐど」  それを合言葉になったチームは、それまでの鵺ではなかった。  ミーティングが終わり、短パンについた畳の跡を気にする大石に言葉をかける菅原。ありったけの勇気を振り絞って。 「この試合に勝ったら、あだしを食事さ連れてってください」  苦しくなるであろう試合を前に、自分の目の前に赤いニンジンをぶら下げた。
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