雷おこし

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 延長でも決着はつかず、運命はPK戦に委ねられた。日本は後攻。  一人目、広瀬が成功。二人目、倉持が成功。三人目、キーパーの増永が成功。  四人目。タイペイ、四人連続で成功。日本はキッカーを募った際真っ先に手を上げた改源。キーパーが先に動くのを見て、真ん中に蹴った。キーパーも残った足を振り上げたが天井ネットが揺れる。  五人目、増永がタイペイのキッカーが蹴るより先に右へ動いてしまう。キッカーがそれを見て左に転がす。ボールが止まった。荒れたゴール前にできた水たまりにはまって大きく減速しながら、それでもゆっくりゴールへ。体勢を立て直し、飛びつく増永。しぶきとともにかき出した。沸き立つ赤のイレブン、ただ一人を除いて。  主審が投げたボールを抱え、スポットを足で均す菅原。最後のキッカーは大石の指名によるもの。見慣れたゴールが小さく見えたので、一度視線を外す。ベンチに両手を固く結んだ本多が見えた。その隣で大石が人差し指を二本、角のように突き立てている。 「・・・泣ぐ子はいねがぁ」  幼い頃泣くほど恐れたなまはげの赤い面を思い出しながら助走に入る。キーパーの動きなど見ず、得意なコースに力いっぱい蹴りこんだ。濡れたボールはグラブを弾いてネットの雫を切った。  聞いたこともないような大声に振り向くと目の前が真っ赤だった。改源だけは受け止めたが、後の選手たちになぎ倒されてしばらく立てなかった。
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