雷おこし

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 アジアカップは出場国が九つ。日本は五か国で争うグループBだった。各グループの二位までがトーナメントに進み、上位三チームがワールドカップ出場権を得る。  世界有数の強豪である中国以外はほぼ横一線という時代である。その中国はグループAに振り分けられ、できたらその中国と当たる前に予選突破を決めたい日本の初戦はグループBの最強のライバル、北朝鮮。互いの情報もほとんどなく、細かくパスを回す日本と大きく前に蹴り出す北朝鮮。  リスクを冒して攻めることに消極的だったのは、当時のルールにも原因があった。リーグ戦では勝利による勝ち点が2、引き分けが1。一勝と二分けの価値が等しく、力が拮抗した相手には勝つことより負けないことを優先する時代だった。 「ドローでもいいってのは、点を取るなってことじゃないからね」  ハーフタイム、監督より先に主将の本多の雷が若いツートップに落ちた。奪われて逆襲、を恐れるあまり及び腰になっていた菅原たちをやきもきしながら見ていたのだ。  後半、バックパスを封印した二人はともかくも前を向いた。菅原のヘディング、改源のスピードは北朝鮮のフィジカルエリートたちにも十分通用した。  右サイドを駆け上がった倉持のセンタリングに菅原が頭から飛びつく。ダイビングヘッドはキーパーのパンチングに止められ、クリアされる。  ルーズボールを広瀬が拾う。左足のスルーパスが北朝鮮ディフェンスを切り裂き、抜け出した改源がスライディングシュートを放つ。左のポストを叩いて跳ね返る。  仕上げは本多だった。左右に揺さぶられた北朝鮮ゴールめがけフリーで打ったミドルシュートは貴重な先制ゴールとなり、キーパーの増永を中心としたディフェンス陣が北朝鮮の猛攻を跳ね返し、辛うじて勝利をものにした。
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