雷おこし

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 水色の折り畳み傘をへし折る勢いのどしゃ降りだった。大雨にも関わらず、外国人は写真を撮り、車夫は跳ねを飛ばしながら駆けてゆく。  くすんだパステル調の景色の中で、真っ赤な油絵の具で描いたようにどぎつい建造物がある。右に風神、左に雷神、その真ん中に真っ赤な提灯をぶら下げた浅草寺の総門、通称雷門。  一時に雷門前、確かにそう約束したがもう三十分は経過している。連絡を取ろうにも近くに公衆電話もなく、待ち合わせ場所から動いたら行き違いになる可能性がある。午前中にカットしてもらったボブがもさもさになるのを気にしながらひたすら立ち尽くす。  フレアスカートにストッキング、黒で統一した今日のコーディネイトのポイントは真っ赤なタートルネック。しかしデニール高めのストッキングもローファーもすでにぐしょ濡れで足元から冷えきっている。たまらずバックからスナッフカーディガンを取り出そうとした時だ。 「おまたっ」  待ち人は来た。無精ひげにジーンズ、番傘に雪駄。極めつけは雷門にも負けない真っ赤なTシャツで、「さよなら人類」とプリントされている。 「だって、メシ食うだけだろ?」 「男性と食事する時くらいオシャレします!」  約束を果たしたら食事に連れていく。  この意図するところが、悲しいほどずれていた。
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