猫ヶ原

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 私は制服を着替えもしないで、冷蔵庫からモロゾフのチーズケーキを出して齧りながら、上地さんの横に座った。 「あら、手、洗った?」 上地さんは横目でちらりと私を見た。 「ねえ、私ね、気になってることがあるの…」 「学校で何かあったの?」 「ううん、イタちゃんのこと。  イタちゃんが来て私はとっても幸せになったけど、  私イタちゃんのこと、家族から引き離して、さらってきちゃったの」 そこまで言って、私はもう泣きそうになった。 上地さんは手を止めて私の顔を見た。 上地さんはニッコリしたり、優しい言葉をかけてくれる人じゃなかったけど、私のことを子ども扱いしないで話を聞いてくれる人だった。 どこかいつも余裕のない母に私はこんな話はしたく無かった。 機嫌がいい時はいいが、虫の居所が悪い時はビシャリと意地悪な言葉を返される。その「ビシャリ」が嫌で、母には話したくなかった。 父は、素面の時は真剣に聞いてくれるが、酔っぱらうと手のひらを返したようにそのことで詰(なじ)られたりするから、全く信用できなくて、話すつもりもなかった。 「私にとってイタちゃんはお友達だけど、イタちゃんにとって私は友達じゃないんじゃないかな。。。猫には猫のお友達が必要なんじゃないかな。。。上地さんちのミーちゃんとお友達になれないかなあって」 ハハハ、と上地さんは可笑しそうに笑った。 「ミーちゃん?ミーちゃんは誰ともお友達にならないよ、バーサン猫だもん」 「だめかあ…」 下を向いた私に、上地さんは続けて話してくれた。 「だいじょぶ、イタちゃん、ちゃんと友達いると思うわよ。お外に遊びに行く猫はね、猫ヶ原(ネコガハラ)にみんな集まって遊ぶんだよ」 「猫ヶ原?」 「そうよ~。夕方、いろんなところから猫が集まる、そういう、原っぱみたいなとこがどこにでもあるの。猫はみんな知ってるの、人が知らないだけよ」
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