猫ヶ原のイタちゃん

神様へおねがい

　その春、私たち家族は、ちょうど世田谷区のマンションに引っ越したばかりだった。マンションは静かな住宅地の中にあって、白い漆喰の壁と赤い屋根、玄関ホールを挟んで左右に４階建ての棟が中庭を囲むように建っている。私たちの部屋は日当たりのいい４階だった。

この可愛らしい新築のマンションでの新生活は、しかし、けっして長閑ではなかった。４年間の別居を解消して共住みを始めた父と母は、まだ、どこかギクシャクしている。別れた時７歳の子供だった私は、１１歳の少女になっていて、父は接し方に戸惑っているようだった。

私は私で、新しい土地、新しい通学路は新鮮だったが、家の中では両親の心の動きばかり気にしていた。別居前の、嵐のような両親の喧騒を知っていたから。