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猫ヶ原
迷子から戻ったイタちゃんは、前より少し、おとなしくなったようだった。
ちょっとずつ、大人に近づいていたのかもしれない。
学校から帰ると、お手伝いさんの上地(かみじ)さんが、大きな体を畳にどっかり落として、洗濯物をたたんでいる最中だった。
イタちゃんも、取り込んだまま積んである洗濯物のふんわりした山にそうっと乗っかって、手足を折りたたんで落ち着いている。
「イタちゃんの、この座り方…私、ダイスキ!
おててを内向きにしてお行儀良くたたむの」
私は、М字に折りたたんだ前足を指でひっかけて崩そうとすると、イタちゃんは「やめてよ~」というように私の指を甘噛みした。
「コウバコ作ってる、っていうのよ」
「こうばこ?」
「そう。猫がコウバコ作るっていうの、この座り方」
「ふうん、コウバコってなあに?」
「お香の箱、でしょ」
上地さんは、あまり表情を変えない人だけど、私のことを可愛がってくれた。甲高い声を出す体の大きなおばさんで、一人暮らしの部屋ではもう何年も猫を飼っていて、猫のことを、とてもよく知っていた。それに、駅前の千歳書店の娘なので、本のことも良く知っている。私が本が好きだから、そんな話もしてくれた。イタちゃんが初めてうちに来た夜、「ずうう、ぶうう」と言っていたのは「うれしくて喉を鳴らしているんだから心配いらない」と教えてくれたのも上地さんだった。
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