messy

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 数日後、俺は姉貴の病室にいた。薄暗い空間に、他に誰もいなかった。それもそのはず、俺たちに両親は既に無いし、姉貴の夫は今頃警察だ。  捜査関係者は、当初から他殺も視野に入れていたようだ。死亡推定時刻の直後、アパート付近から最寄駅に至るまでの防犯カメラが幾つも奴の姿を収めていた。そらそうだろ、あいつと不倫してたもんな。多分決め手は、よく似た風貌の男が玄関先であいつと話をしていたという住民の証言。そういう訳で、重要参考人として現在も事情聴取を受けている。  ニュースの冒頭、短い溜めの後。来た。世間では、不義の果ての身勝手な犯行として連日報道された。行間を読めば自業自得。神妙な顔を被ったキャスターやらコメンテーターが、大仰なフリップを取り出して指差し解説を始める。まるでメインディッシュの扱いだ。舌舐めずりする。その中央部、ただ一つだけ浮かぶ赤い棒人間の下には「被害者・池尻亜純さん(19)」とある。その周りに夥しく連なる、青く塗られた棒人間達。一際大きいのが奴だ。今はまだ「重要参考人の男(28)」。被害に遭ったのが未成年の女子大生とあって、ここぞとばかりに綺麗な格好、綺麗な言葉でコーティングした罵詈雑言が吐き出される。そのサマを見て、再認識する。  やはり人間の中枢は汚物で散らかっている事を。  だからじきに実名も出るだろう。容疑者として。  これで奴も、この社会(じごく)で生きながらに死ぬんだ。
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