<第三話~行方知れずの善意~>

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――そういえば、魔王っていうのはどうして生まれるんだろう。時折生まれる異端児であり、生まれついてのサイコパスである……って話は聞いた覚えがあるけれど。  赤絨毯の廊下、豪華なシャンデリア――貴族からの、多額の寄付金で成り立っているこの学校は、右を見ても左を見ても豪華な装飾に彩られている。  この学校は、魔王に対抗するためという名目で建てられたものであるはず。勇者は一人しか選ばれないが、この学校を卒業した生徒の多くは優秀な軍人として雇用され、あるいはその魔法技術を生かして多くの専門職に就くことになる。勇者のバックアップも、この学校の生徒と教員、関係者が全力で行う手はずになっているはずだ。  そして、寄付される金額は億とも兆とも言われている。それだけのお金を使ってこの学校を作るメリットが、上級貴族諸兄にあったということである。それほどまでに、彼らにとって魔王という存在が脅威であったということなのだろうか?あるいは、他に何か大きな理由があるとでもいうのか。  そもそも、どうして魔王が一人しか選ばれないのか、というのが謎で仕方ない。  多くの優秀な生徒で連携を取りながら魔王を追い詰め、討伐した方が余程効率が良いように思えるというのに。そもそも、“元勇者”には軍職よりも公務員に就く者が多いと聞いている。それにも何か、理由があるのだろうか。 「あら、アシュリー。お帰りなさい。随分浮かない顔をしていますね」  大理石の階段を登ろうと足をかけた時、丁度上から降りてくる人影があった。紅蓮のローブに身を包み、学年主任の証である☆のついた腕章をつけた上品な老婦人。アシュリーが捜していた、マチルダである。 「あの、先生。……私、どうしても気になることがあるんですけど……」  立ち話でいいのだろうか、そう思いながらも声を出すと。 「わかりました。なんとなくね、そんな気はしていたの」  まるで全てを悟ったように、彼女は手に持った魔導書を抱え直した。 「場所を移しましょうか。きっと人に、聞かれない方がいいでしょうから」
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