<第三話~行方知れずの善意~>

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「ジョシュアの言うことは、正しいのですよ」 「と、いうと……?」 「全ては、一本の線で繋がっているということです。募金も、魔王も、勇者も、子供達も全て。ジョシュアならそういうことに必ず気づくだろうと思っていました。だから私は、彼を貴方の相方の勇者として選んだのです」  訳がわからない。混乱するアシュリーに、マチルダは続ける。 「一つずつ話しましょう。まず、募金について。……確かに、私達は誰も、募金の本当の目的を語るということをしていません。困っている人達を助ける為の募金だとは伝えていますが、誰がどう困っていて、それがどのように使われるのかを語ったことはありません。というのも、集めた時点ではどのように使われるか決まってはいないのですよ。私達の集めたお金は、一度政府に上納されて、その上でどのような使い方をされるのか審議される仕組みになっています」 「え!?」  ちょっと待って、とアシュリーは困惑する。募金なのに、国に回収されている?使い方を国が決めている?てっきり、学園が集めてそれぞれの支援団体に寄付しているとばかり思っていたというのに。 「ここから先の話は、他の生徒……ジョシュア以外には話してはいけませんよ。彼は恐らくこの仕組みにとっくの昔に気づいているのでしょうから。国が集めたこのお金は、“すべての国民のために”最も有用な使い方が審議され、そして国家予算の一部として使われているようです。ようです……というのは、私達も最終的にお金がどのように使われているのか知らないからなのですよ。その報告は、私達に降りてきていません。彼らには報告義務も課されていません」  それって、と。じわじわ足元から這い上がってくるものに、背筋を凍らせるアシュリー。  自分達が、貧しい人のためにと思って集めてきたお金が――もしかしたら一度も、そういう目的で使用されていないかもしれないと、そういうことではないのだろうか。 「……じゃあ、私達のお金は……」 「わかりません。そして、わからないことが、答えなのかもしれません」 「そんな!じゃあ、どうしてそんな募金活動をしてるんですか!?私、ずっと……貧しい人達を助けるために役立っているとばかり思ってたのに……!」  頑張ってね、と微笑んでくれた老婦人の顔が浮かんで、消えていく。彼女達もきっと、そういう願いをこめてお金を寄付してくれたはずだというのに、その結末がこれではあんまりではないか。 「この王国は、王族、貴族、中流階級、労働階級、下層階級……大まかにそういった具合で身分が分かれています。法律の上では学ぶ自由を認め、身分の差なく人々の権利を保証していますが……実情は、そうではありません。貴方も見たのでしょう、下層階級と呼ばれた者達が、明日をも知れる運命を生きているという現実を。特にその子供達が……黒い髪に黒い目を持っているということを」  マチルダの言葉に固まる。確かに、あの姉妹は黒髪黒目であった。この国では珍しい――と、アシュリーが思っていた色だ。実際に、学園で黒髪黒目の生徒はジョシュア以外に見たことがない。  そしてそのジョシュアは、カラスみたいで気持ち悪いだの、魔王の予備軍だのと呼ばれて皆から疎まれている。何故なら――現魔王である、ファウストも黒髪黒目の持ち主であるから。そして魔王には、それなりに高い確率で黒髪黒目の持ち主が含まれているからだ。  黒髪黒目は不吉の象徴と噂される事が少なくない。まさかそれは、単に気味が悪いと言われている、だけの話で収まってはいないのだろうか。 「貧しい人……特に、アンダークラスの人々を、本気で救済したいと思う人間が、この国に一体どれほどいるのでしょうね。同時に。本当の意味での平和を望む、良識ある人間も」  マチルダは苦しげに俯き、そしてため息をついた。 「勇者が一人しか選ばれないのには、理由があるのです。私もかつて、選ばれし勇者でした。そして現実を知ったのです。何故、選ばれし勇者が一人で魔王を討伐しなければいけないのか……その真実を」
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