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<第四話~不平等なセカイ~>
勇者が一人しか選ばれない、理由。それがポジティブなものでないことは、マチルダの表情からも明らかだった。
困惑しながらもアシュリーは考える。考えなければならない、そんな気がしていた。
「……勇者が魔王に倒されても、被害が大きくならないように……でしょうか?」
考え抜いた末、どうにかアシュリーが絞り出した答えはそれだった。
複数人の団体で、もし討伐に向かって失敗したのなら。当然と言えば当然だが、被害人数は相応に増えることになる。優秀な生徒が何人も失われることになるのは、当然避けたいことであるはずだ。ただでさえ魔王と呼ばれる存在は強大な力を持つとされている。一人で討伐するのは難しく、恐らく複数人で討伐しても倒せる見込みがあるかどうかは怪しいものなのだろう。
魔王ファウストの所業は、アシュリーも当然聞き及んでいる。彼の魔法のせいで、一体幾つの町が壊滅したか知れないのが実情だ。竜を操り、風や水をまるで生き物のように動かして町一つ容易く沈めることが出来るという魔王。失敗する確率も相応に高いはずで――。
――あ、れ?
ここで、アシュリーは気づく。勇者になると決めたその日に見た、歴代の“勇者名鑑”。相変わらずどの勇者も一人だけで魔王討伐に向かっているが――失敗したのは過去十五人のうち、二人だけではなかっただろうか?
強大なはずの魔王。にも関わらず、一人きりの勇者がいつも高い確率で魔王に勝利し凱旋している。何故だろう。そもそもそんなに勝率が高いなら、先のアシュリーの仮説は完全に破綻しているのではなかろうか。
「私は答えをそのまま言うことが、出来ません。……答えは、貴女が自分で見つけるしかないのです。私に言うことが出来るのは、ヒントまで」
苦しげな顔で、マチルダは告げる。
「今年も本当ならば、勇者は一人だけが選ばれるはずでした。そして、実は一般に公開されていない選考基準が幾つか存在しています。そのうちのひとつが、勇者候補の環境と性格。中流階級以上で、それなりに恵まれた生活を送り、かつ慈愛に溢れた求心力の高い人物。協調性がない者、周囲の信頼が薄い者が選ばれることはまずありません。また、中流階級以上であっても、天涯孤独の者が選ばれることもないのです……本来なら」
「ということは、やっぱり……」
「その通り。本来ならば今年も勇者は一人であるはずでした。アシュリー、貴女の能力は大変素晴らしい。確かに魔王の苦手属性に対応しているわけではありませんが、それを補って余りある高い魔力と身体能力、何より求心力があります。本来ならば、貴女一人が勇者として選ばれるはずでした。……それに異を唱えたのは私と、カノン先生、トール校長です」
「えっ……!?」
アシュリーが驚くのも当然と言えば当然、そのメンバーの共通点など火を見るよりも明らかである。
全員が、元勇者――だ。
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