<第四話~不平等なセカイ~>

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「先程の基準を見ればわかる通り。確かに成績だけならば、ジョシュアもまたトップクラスに違いありません。しかしそれ以外のところで、彼は本来ならば勇者の選考基準から外れています。彼は家族がいませんし、下層階級の出です。この学校に入れたのも、その優秀な成績から奨学金が出ることになったからこそ、特例中の特例です。何より、他の生徒の皆さんと非常に折り合いが悪い。そういう生徒はまず勇者に選ばれません。なぜだと思いますか?」  何故――何故?その問いは、アシュリーには少々難解すぎた。  性格や性質の面に関しては納得がいかないこともない。勇者とはいわば英雄、皆のお手本となるべき存在だとアシュリーは思っている。こんな言い方をしては元も子もないが、ある程度はアイドル的な素質が求められるのではないか?と感じるのだ。俳優でもいい。とにかく、皆の期待に笑顔で答えられる人間でなければふさわしくないのではないか?ということである。  なんといっても、勇者に皆がこの世界の未来を、希望を託して送り出すのだ。その勇者が乱暴者であったり根倉であったりしては、人々も安心して未来を任せることなどできないだろう。  そう、そこは、わかる。問題は――階級と、家族関係。  上級貴族の家の娘として、何不自由なく暮らしてきたという自負がある。自分が今まで食べるものにも着るものにも困ったことがないのは、己の生まれ持った高い身分と両親のたゆまぬ努力ゆえということは理解しているのだ。  しかし、だからといって階級制度をそのまま肯定できるかというとそんなことはない。貴族の人達がよく口にする“貴族以外は人間ではない”だの、“労働階級以下の人間は何も産み出さない、いわば無産階級だ”だのという言葉には全く賛同しかねるところである。  アシュリーの友人には、貴族ではない者も少なくない。流石に下層階級の人間は殆ど見かけないが、それでも労働者階級の者はいるし、皆が貴族もそうでない人間も分け隔てなく接することが出来ていると確信している。当然アシュリー自身、友人を身分で差別したことはない。人の価値は、そんなもので決まるはずがないと確信しているからだ。本当に大切なのは心であり、性格であり、信念である。身分なんて選べないもののせいで、人の命の価値が決まってしまうなど断じてあっていいはずがない。  同時に――家族に関してもそうだ。  家族がいないなんて、そんなものはジョシュアのせいでも何でもないではないか。アシュリーも、彼の階級やら家族やらなんて全く気にしたことがなかった。下層階級出身ということさえたった今知ったことである。何故家族がいない者や、階級が低い者は勇者になってはいけないのだろう。理解に苦しむことだった。
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