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――でも。……そういえば、魔王には黒髪黒目が多くて……下層階級の人間にも黒髪黒目が多いって。それは、偶然なの?
実際、ジョシュアは黒髪黒目。あのスラムの姉妹も同じだった。――流石に、たまたま一致しただけとは考えにくい。
「……ごめんなさい、先生。考えたけど、私にはどうしてもわからないです。ただ……魔王が黒髪黒目で、下層階級の人達もそうであることが多いのって……何か理由があるんでしょうか」
「あるといえば、あるのでしょうね。少なくとも国王陛下には」
「?」
ここで、国王陛下が出てくる?どういう意味だろう。
「私達の世界は、実質ルナシルド王国によって統治されています。そしてルナシルド王国には国教がある。……興味があるのでしたら、調べてみるといいでしょう。それで大体のところは察せられるはずです」
それから、とマチルダは続ける。ぎゅっとアシュリーの手を握り締め、そして。
「アシュリー。どうしても貴女に考えて欲しいことがあります。その答えを。……全てが終わった後で、どうか私の元に持ってきて欲しいのです。……貴女はこの世界には、光だけがあればいいと思っている。しかし、本当に闇は、マイナスの心は、必要のないものなのでしょうか?」
マチルダの顔はどこか、泣き出しそうに歪んでいた。何かを訴えるように、それでいて核心を告げられないことをひどくもどかしく思っているように。
初等部の頃から面倒を見てくれている、老いてなお美しい恩師。彼女のこんな顔を、未だかつてアシュリーは見たことがなかった。
――先生。……先生は、何をそんなに悲しんでるのですか?
握られた手から伝わってくる、震え。
彼女は勇者になった日――一体何を見たというのだろう。
そうまでして何を苦悩し、決意したというのだろう。
アシュリーがその答えを知るのは、全てが引き返せない段階に、たどり着いてからのことだった。
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