<第一話~アシュリーとジョシュア~>

2/4
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
 ***  この世界に、魔法を中心とした文明が花開いておおよそ千年。  この世界ではあらゆる魔法を扱う人々とモンスター達が、共存共栄しながら暮らしている。  時折貧富の格差やら、国同士の揉め事やら紛争やらが起きることはあるが。全体から見れば、この千年大きな戦争のようなものは起きていないと言っていい。大国・ルナシルドが五百年前に世界統一を果たし、様々な小国を一つにまとめ上げた功績が大きい、と人々には讃えられている。  しかし、そんな平和を脅かす存在が時折現れるのだ。  それが、“魔王”と呼ばれる異端児の存在。普通の人間よりも遥かに大きな魔力を持つとされる魔王は、時折この世界に生まれ落ちては世界征服を目論んで大きな動乱を引き起こすのである。  そんな魔王の存在に対抗するため、作られたのがアシュリーの通うルナシルド国立魔法学校だった。魔王がいつ何時現れても対処できるように、この学校では高い戦闘技術と魔法技術を学ぶことができ、魔王が出現した折には随時魔王を討伐するに相応しい“勇者”を選ぶことができるようになっているのである。  何故、“勇者”が一人しか選ばれないのか?というのはアシュリーもよく知らない話だ。知っているのは、勇者の候補は基本的にその年に学校を卒業する十七歳か十八歳の少年少女から選ばれるということ。それは、あらゆる戦闘技術や魔法技術に長けた、その年最も成績が優秀な生徒が選抜されるということである。  アシュリーは己が選ばれることを殆ど疑ってはいなかった。というのも、そもそもアシュリーは最初から自分の年に魔王が現れることを、家の専属占い師の予言で知っていたのである。  勿論、占いだって外れることはある。それでも自分がこの世界を救う勇者になるのだと奮い立ち、四歳から魔法の英才教育を受けてきた娘がアシュリーだった。アシュリーの家は、ルナシルドにも古くから存在する侯爵の家柄である。誰よりも恵まれた家庭環境で育ち、存分に技術を磨いて生きてきたいわばエリート中のエリートなお嬢様が自分なのだ。 ――この平和な世界を脅かす魔王なんて、絶対許してはおけません。今こそ今日まで私を守り、愛してくれたこの国に、世界に!私のこの手で報恩する時なのです!!  魔法学校へ進学することに、躊躇いは全く無かった。  自分の力がどれほど通用するか試したかったというのもあるし――どれほど魔王の力が強大であり、その討伐への道のりが長く険しいものであったとしても。この世界を救うため、命を賭ける覚悟がアシュリーにはあったのである。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!