<第一話~アシュリーとジョシュア~>

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 己が恵まれ、愛された生活をしてきた自覚がアシュリーにはあった。しかしそこで傲慢に、横柄に生きるという選択はアシュリーにはない。自分が平和に、幸福に生きて来れたのは己の功績ではない。優しく気高い両親が、国が、世界が己を守ってくれた結果だと正しく理解していたからである。  十八歳になるまで己を慈しみ育ててくれた、素晴らしきこの世界。  その世界のために命を擲つことを、アシュリーは全く惜しいとは思っていなかった。むしろ、そのために己の生はあったと信じて疑わないほどである。  そして、そんなアシュリーは、お嬢様ながら気取らない性格が評判を呼び、魔法学校のクラスでいつも人気者であったのだった。 『癒しの魔法ですけど、無闇に強い魔法を使うのはかえって危険なんですよ』  学校の講義だけでは不十分な点を、友人達に教えて回るアシュリー。放課後も休み時間も、講義室ではアシュリーの周りはいつも人だかりが出来ているものである。 『回復魔法は一見すると非常に便利なもののように思えます。ですが、実は癒し手の魔力だけで回復を行っているわけではない。癒される側の回復力を、癒し手が補助しているに過ぎないのです』 『えっと……それってどういうことなの、アシュリー?』 『病で亡くなる人に、回復魔法をかけてはいけないというのはつまりそういうこと、なのですよ。回復は、かけられる側の体力によるもの。癒し手はその回復力を、己の魔力で強化しているだけ。ですので……かけられる側の体力が残っていないと、回復魔法をかけても効果がないどころか、かえって苦しめてしまう結果になってしまうのです。病気の場合は、体力が底をついてなくなってしまう人が多いでしょう?ゆえに、医療で病人に回復魔法を行う場合は慎重にいかなければならないのです。回復魔法の使い方を間違えた結果、その人を死に至らしめてしまってはなんの意味もないですからね』 『な、なるほど……』  アシュリーは光魔法による攻防を得意としていたが(ちなみにこの光、というのは魔法属性のことである。単なる種類ではなく、属性によってそれぞれ特徴を持っているのだ。)、同じだけ回復魔法も嗜んでいた。どちらかというと魔法剣の攻撃ありきで動く“魔法剣士”タイプであったものの、最終的に勇者となって魔王討伐に向かうとあれば仲間に頼ることはできない。一人で攻撃も回復もこなせるようになっている必要がある。ゆえに、回復魔法も人並み以上に知識を覚え、さらに技術を高めるのは当然の事ではあった。  回復魔法、補助魔法はしっかり覚えていて損がないものである。うまく使えば、魔力を節約して高いダメージを与えることも不可能ではない。アシュリーは予言があったとはいえ、だから傲慢になるつもりは微塵もなかった。万が一自分以外が選ばれても。その者にはきちんと使命を果たして生きて帰って欲しい。仲間達に、知識を共有することに躊躇いはないのである。  何故ならば、アシュリーは同学年の者達の中で、知らない者など一人もいないほど交友関係が深いのだ。特に同じクラスの人間は、全員が友達と言っても過言ではないほど仲良しだった。――そう、約一名を除いては。
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