<第一話~アシュリーとジョシュア~>

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『ちょっとそこの根暗君もさあ、アシュリーに回復魔法教えてもらえば?いっつも怪我ばっかりしてるんだし』  友人の一人が声をかけた先。隅っこの席に座って、黙々と本を読んでいる少年がいた。この世界ではあまり見ない、真っ黒な長髪に真っ黒な眼の少年。カラスみたいで不吉だ、と周囲から遠巻きにされる彼は、その見た目以外にも避けられる理由があった。  その性格の暗さと――闇魔法ばかり好む性質である。  闇魔法は、己が受けたダメージが多ければ多いほど威力を増す特性がある。そのせいか、綺麗な顔をしているというのに、彼はいつも頭からつま先まで傷だらけだった。闇魔法なんてものに拘らなければ、あんな怪我ばかりする必要がないのに――というか、怪我をしたり苦しかったりしたら、他の誰かに頼ればいいのに。アシュリーはいつも、不思議でならなかった。 『ねえ、ジョシュア。回復魔法、教えてあげましょうか?今もほら、包帯撒いてるその腕とか、凄く痛そうですし。なんなら私が今かけてあげてもいいですよ?』  その性格も魔法も好きではないが、だからといって怪我をして、一人ぼっちでいる相手をほっておくことはできない。アシュリーが声をかけると、ジョシュアはいつも鬱陶しそうな視線を投げかけてくるのだった。 『要らない。……ほっといてくれ』 『でも。痛そうだし。それに、どうしていつも一人でばかりいるんですか?みんなと一緒にお話したほうが楽しいですよ。せっかくジョシュア、綺麗な顔してるのに勿体無いです。もっとみんなと笑いましょうよ、お話しましょうよ、ねえ』 『煩いなほっといてくれって言ってるだろ』  ジョシュアはそう吐き捨てるように言って、講義室を出ていってしまった。それを見て、酷い!と怒り出すのはアシュリーを取り巻いていた友人達である。 『アシュリーが親切で声をかけてあげてるのに、あんな態度!本当に根暗なんだから!やっぱり、闇魔法ばっかり使う奴は駄目なのよ、魔王の予備軍なんだわ、きっと!!』  アシュリーはといえば――いつも、怒りよりも不思議でならなかったのである。  どうして彼はいつも暗い顔ばかりして、笑わないのだろう。みんなと一緒にお喋りをしたりしないのだろう。笑った方がずっと楽しいのに、みんなと一緒にいる方がずっと明るい気持ちになれるというのに。  闇魔法、なんてものを好むから、気持ちまで暗くなってしまうのではないだろうか。魔王の予備軍だとは思わないが――少しだけ、心配だった。このままでは、彼がどんどん独りになって、底知れぬ奈落に堕ちていってしまうような、そんな気がして。 ――助けてあげたいな。……でも、ジョシュアは私のこと、嫌ってるんだろうしなあ……。  そう思っていた。しかし、ジョシュアの態度は、いくらアシュリーが親切にしても変わることはなかったのである。  どんどんどんどん、アシュリーの中でジョシュアの悪い印象が積み重なっていったのは仕方のないことではあるだろう。次第に彼のことを心配しつつも、避けるようになっていったというのも。
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