<第二話~色のない視線~>

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「知らない、知らされてない。それが問題なんだと何故気づかない?先月は学年で合計どれだけの金額が集まった?102万Gだぞ。それだけあればボロボロな孤児院が丸っとピカピカに建て直せる額だ。なのにどうして、集めている俺達がその行き先を正確に知らない?」 「え……」  驚いた。確かに言われてみればまさにその通りである。自分は、この募金のきちんとしと行き先を知らない。何年も学校で続けているのに、集めたお金が橋になったとか薬になったとか、そういう話もまるで聞いたことがない。  聞いたことがないことにさえ、気づいてなかったのだ。同時に。 ――孤児院が建て直せる……額。  ぱっとすぐに数字が出てきた、ジョシュア。彼がそこまで物を見ていたなんて、全く知らなかった。 「そもそも募金を使ってまず最初にするべきは、パンでも水でも薬でもない。この町のスラムに何人が住んでるかの実地調査だろ。政府はそういうの全然無頓着だからな。下層階級が増えて食料不足になるのを防ぐため、アンダークラス限定で出産制限政策なんて馬鹿げたことをするからこうなる。治安も悪ければ知識もない、農村部では人手も足らないとくれば、届けが出ない闇子が増えるのは当然だってのにな。それで戸籍がないせいで人口の正確な数さえ把握できないなんて、本当にアホらしいとしか言いようがない」 「……何で、貴方はそんなこと…………」 「知ってるのかって?……そんなの、知ろうと思えば簡単に知れることだろ」  どういう意味なんだろう。アシュリーは混乱してしまう。この町の人口はおおよそ四十万人とされている。スラムの人間をふくめてその人数だとばかり思っていたが、違うというのだろうか。  闇子、なんて本当にいるものなのか。確かに一時期政府が差別的な政策を行っていたことは知っているが――。 「!」  ふと、視線を感じて見れば。ポストの影から、二人の子供がこちらをじっと見ていた。どちらも黒髪に黒目の、六歳~八歳くらいとおぼしき子供である。多分どちらも女の子――だと思うのだが、いかんせん着ているワンピースも顔も煤だらけのボロボロで、体格も痩せ細っているためはっきりしない。  確かなことはひとつだけだった。子供たちはこちらを強く強く睨み付けていた。まるで、親の仇でも見るような――憎悪に満ちた眼で。 「全部理由がある。何もかも繋がってる。魔王も、勇者も、募金も、先生の意図も全部な」  そんな少女たちを――どこか悲しげな眼で見つめて、ジョシュアは告げた。 「ちゃんと考えろ。その上で決めろ。本当に、この世界に闇は必要ないのかどうかな」
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