<第五話~勇者の歴史~>

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<第五話~勇者の歴史~>

 マチルダと話をして、三日が経過していた。  旅立ちの準備をしつつも、相変わらずジョシュアとの関係が良くなる気配はない。アシュリーは嫌でも理解せざるをえなかった。自分は、本当に彼に嫌われているらしい、と。昨日もまた怪我をしていた彼に、さすがに心配になって話しかけたものの。彼には一言“ほっといてくれ”と言われてつっぱねられてしまい、それっきりになっていた。  こんな調子で、強大な力を持つ魔王と戦うことなどできるのだろうか。自分達で手を取り合って、共に敵に立ち向かって行かなければいけないはずだというのに。 『アシュリー。どうしても貴女に考えて欲しいことがあります。その答えを。……魔王との戦いが終わった後で、どうか私の元に持ってきて欲しいのです。……貴女はこの世界には、光だけがあればいいと思っている。しかし、本当に闇は、マイナスの心は、必要のないものなのでしょうか?』 ――マチルダ先生は、結局何が言いたかったのかしら。  アシュリーはあれ以来、訓練や授業の時間以外は図書館に篭るようになっていた。どうしてもマチルダの言葉が気にかかって仕方なかったためである。  勿論、図書館にある情報が、真実の全てだと思っているわけではない。実際、自分達の知らないところで募金のお金が政府に流用されていた可能性は大いにあるとわかってしまったわけなのだから。  だが、それでも。表向きの事実さえ知らないようでは、恐らくこのもやもやを解消することなどできはしないのだろう。というのも、やはりアシュリーには納得がいかないことが多かったからである。  この世界に、闇など必要ない。  勿論“夜”だとか“暗闇”だとか、そういう物理的な闇は必要だと思っているが。闇は必要でも“病み”や“殺み”が必要だとは思えない。人の心に、暗い影など落ない方がいいに決まっているではないか。  人間に悪意や、苦しみ、嫉妬、怒りなどがあるから、この世界もかつては戦乱が耐えずに多くの人々が亡くなっていったのである。他人と己を過剰に比べず、隣の田が青いなどと羨まず、他人を象徴しお互いに慈愛を向けていることさえできれば。この世界は、間違いなく良いものになっていくはずである。  人の心には、光だけがあればいいはずなのだ。己も他人も傷つけるばかりの、闇の魔法なんてものも絶対に無い方がいいのである。あの魔法は、術者の心をも深淵に貶める。暗い気持ちを増幅させると言われている。――すべての人の心に、光だけが満ちる世界こそ正解だと、そう思ってきた自分はそんなにも間違っているのだろうか。  光の反対が闇。事実としてはそうだ、でも。  反対に裏返ることさえなければ、光はいつまでも光のままであれるはずである。マイナスの心なんて、絶対に存在しない方がいいはずなのに。
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