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⑳
昨日も経験した、ふわふわとした感覚を味わう。しかし二回目だからか、今度は意識を失いはしなかった。
辺りを見回す。そこは、俺が住むアパートの近所に間違いなかった。
「凛、やったぞ! 帰ってこれた!」
「ええ! ああ、本当によかった……」
そして思い出す。もし設定した時間通りに帰ってくることができていたとしたら、愚か極まる昨日の俺が、もうすぐ部屋から飛び出してくるころだ。
「俺、行かなきゃ!」
「ええ、頑張って」
凛がそう声をかけてくれる。と、俺はふと気になったことを尋ねる。
「この車、どうするんだ?」
「ま、ほったらかしとくわ。その内あの変態ドクターが回収しに来るでしょ」
確かに、俺たちがこいつをどうこうする権利も義務もないか。
「じゃ、行ってくる」
「うん。また話、聞かせなさいよ」
俺は助手席のドアを開け、外に出る。
そして走りだす。
表へ出ると、見えてくる。俺の住んでるアパートだ。俺は走って、階段を上る。すると、俺は前から階段を降りて来ている人とぶつかってしまった。
その顔を下から見て驚く。
俺だ。
そう言えば昨日、階段を下りる途中でびしょ濡れの男にぶつかったっけ……。
あのときは動転していたし顔も見えなかったから気付かなかったけど、そうか、俺がぶつかったのは、俺自身だったんだ。
俺はそのまま、俺の横を通り過ぎた。そしてアパートの、自分の部屋の前に立つ。
そして、急に不安な気持ちが俺を襲ってくる。
もしも俺たちの行動で未来が変わってしまっていたりしたら、この部屋の中に沙耶ちゃんはいないかもしれない。
「ふぅ……」
いや、考えても仕方がないか。
深呼吸を一つして、俺は部屋のドアを開けた。
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