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 二十一歳、男の子と女の子、ホームレスデビュー。  俺たちは、凛や俺の実家がある町まで歩いてきた。  住み慣れた街の方が、このさき生き延びるのに好都合だろうと思ったからだった。しかしその分、知り合いに出会う危険性が増すので注意しなければならない。  俺たちの全財産は、合計して残り千二百円ほどだった(極貧すぎるだろ)。  だから少しでも節約をしようと二つ離れたこの町まで歩いてきたのだが、それが悪手だった。  七月下旬の蒸し暑い空気が、俺たちの生気を完全に干上がらせてしまった。絶望的な状況も相まって、俺と凛は互いにほとんど一言もしゃべらず、およそ8キロの道のりを汗だくでトボトボと歩くことになった。 「ねえ、ほんとにこれだけしか持ってないわけ……? 二百円しか入ってない財布と、充電の切れた携帯と、制汗スプレーだけ?」  凛が、俺のリュックの中身を見て、愕然とした様子で尋ねる。 「しょうがないだろ。ショックすぎて、すぐに部屋を出てきちまったんだから。制汗スプレー、使う?」 「……ありがと。でも、もうちょっと早く出してくれたらもっと嬉しかったわ」  そう言って、凛は制汗スプレーを首筋や脇に使う。  そしてまた、凛が口を開いた。 「ねえ、それより、マジでここで寝るわけ……?」 「文句言うなよ。ここぐらいしか思いつかなかったんだから」  歩いた果てに俺たちは、町の外れにある河川敷にたどり着いた。  そして現在、川に架かるコンクリート製の橋の下に身を潜めている。 「ほら、段ボールが落ちてる。これを布団代わりにするんだ」 「嫌よ。誰かが既に使ったかもわからないのに」 「そんなこと言ってる場合かよ」  ここらはホームレスたちの溜まり場として有名だった。少なくとも四年前の時点ではそうだった気がする。  だからこそ俺たちは目立たぬようにとここにやってきたのだったが、何故かそこには誰一人としてホームレスの姿はなかった。  気を遣わなくていい点では好都合だったが、しかしこれで誰かに見つかるリスクが高まってしまった。 「ほら、ベッドメイキングできたぞ」 「段ボールを二つ並べることをベッドメイキングと呼ばないで」  仕方なく、といった感じで凛は段ボールの上に横になる。その後で俺も同じように、草の上に置いた段ボールに身を預ける。 「……襲ってきたりしないでよ」と凛が言う。 「するかよ。だいたい俺は沙耶ちゃんの……」  そこまで言って、俺は言葉に詰まる。ひとたび名前を出すと、頭の中に一気に沙耶ちゃんの映像が流れ込んでくる。  そうだ、俺は沙耶ちゃんのために……。  しかし、そうは言ってられない状況になってしまった。もし過去を変えても、現在の沙耶ちゃんに会えなければ、何の意味もないのだ。  沙耶ちゃんが処女じゃなくて、確かにショックだった。しかし、沙耶ちゃんがいないと、俺は……。  なんであんな態度をとってしまったんだろう。考えていると、自然に涙があふれてきた。  疲れているせいもあってか、その涙は止まらなかった。  そしてそのまま、俺は眠りに落ちた。
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