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 沙耶ちゃんの夢を見た。  いや、夢というよりもむしろ、これはむしろ回想と言った方が近いのかもしれない。 「葉人くん」  俺たちは、俺の住むアパートの室内、そのベッドの中にいた。  これは、沙耶ちゃんが初めて俺の部屋に泊まりに来てくれた時だ。確か、俺はビビッて、なかなかキスができずにいたんだっけ。  布団の中、沙耶ちゃんが俺に抱きついてきて言う。 「あのね、葉人くん。私、怖いの」  沙耶ちゃんは顔を俺の胸にうずめていて、その表情は見えなかった。  だけど彼女には、しっかりと、俺の激しい鼓動が聞こえているのだろう、と思った。 「怖いって、どうして?」 「うん。うまく言えないけど……、未来とか将来が、怖いっていうか……」  そのとき俺は、意外に思ったんだ。いつも笑顔の沙耶ちゃんに、そんな悩みがあったなんて。  動揺した俺は、当たり障りのない事しか言うことができなかった。 「俺だって、未来のことは不安だよ。何が起こるのか分からないのは、怖いよね」  沙耶ちゃんが顔を少し動かす。  上目遣いの彼女の眼差しが俺の視線と重なって、心臓の鼓動が最高潮に速くなる。 「私は、未来が分からないから怖いんじゃなくて。むしろ……」 「?」 「……ううん。なんでもないの。ごめんね」 「いや、こっちこそ……、なんかごめん」 「へへ。葉人くんに抱きしめられるのが気持ちよくて、つい甘えちゃった」  その声も、髪の匂いも、体温も、全てが愛しくて、さっきまでよりも強く彼女のことを抱きしめる。彼女が体を動かし、顔を俺の目の前に近づける。  そして俺は、人生で初めてのキスをした。もっとも、沙耶ちゃんはそうではなかったのだろうが。  あのとき、沙耶ちゃんが本当は何を言おうとしたのか、俺はまだ知らない。
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