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レッド
僕は知っている。
正義の味方の、あの中央に立っている人はレッドという。
赤い色をしている、それは僕が大好きな色。
なのに僕のランドセルは赤くない。
赤が良かったのに、赤が良かったなぁ。
男女別に色分けされたシールの色も、いつも赤色にはしてくれない。
正義の味方の、あの中央に立っているリーダーは何時も男の人で、絶対いつも赤い色なのに。
何故か僕は何時も黒だ。
僕の世界ではいつも、大好きな色が……分からない。分からなかったんだ僕には、赤い色がどんな色なのか本当は、分かっていなかった。
正義の味方の、あの中央に立っている人が赤い色をしている事だけは知っている。
でも僕には本当は、その色が分からない。
憧れの色、赤い色とはどんな……色なのだろう。
色覚異常を抱える僕は大好きな赤い色も、そもそも色という概念さえ何一つ、分かっていなかった。
異常を抱えているのは僕の目である。僕の頭は正常だ、多分正常であると思う。
世界を見る、瞳の構造の欠陥で僕は色を識別できない。この僕が、どうすれば色という概念を認識出来るだろう。僕では無く、正しく色を認識出来る誰かの目から得た認識を僕が、得られればどうだろう。
きっとその時、僕には色が見える様になるだろうか?
「例えば、人の見た夢を僕が見ることが出来たらどうだろう?」
「それって、例えばこう、よくある……他人の記憶をのぞき見する、みたいな奴か」
「成る程、そういう手段もあるかな。とにかく、他人の記録を共有出来たら、他人が見ている世界の在り方を、知る事が出来るだろうか」
海は青い。あの色は青だ。
でも、本当にあれは海で、あの海の色は青だろうか?
誰がそれを証明してくれるのだろう。僕自身でそれを証明する手立てがあるだろうか。
他人であればどうか?隣で一緒に海を見ている他人なら、それが海である事、海が青い事を告げる事で証明は成り立つだろうか。
一人では足りないだろうか。十人用意して、そのうち半数以上が同じことを応えればあれは海で、色は青だという証明に成りうるか。
そのうちの一人になった僕は何と答えるだろう。
色が分からない事をひた隠しに、海とはいかなるものかを知識で埋めて、海の色はどんな色かを他人の、言語に寄った知識で補い……。
本当に見えて居る景色を無視して僕は、海は青いと答えているだろうか。
その海に、夕日が沈んでいく様子を見たい。
その時、太陽は真っ赤になると聞いている。空も同じく真っ赤に染まるのだと聞いている。
青いはずの空が、その時赤くなる様子が見たい。
その時海はどんな色をしているのだろう。青いはずの海の色は?やはり赤く見えるのだろうか?
ぼんやりとした、大手術でもして目を取り換えない限りは叶う事の無い、色を知りたい僕の願いは……ひょんな事で叶う事になった。
新しいゲーム機が開発された、それは夢を見る間にだけ遊ぶことが出来るゲーム。『脳』の働きを借りてそこで、他人の記憶も入り混じる『情報』だけを元に作られた世界を『夢』に見るという、ゲームだ。
分かり易く云えば、見たい夢を見ることが出来るゲームという事かもしれない。
夢の内容なんて本来、選ぶことが出来ないはずなのだがそのゲームは、自分がこれから見る夢に、ある程度の方向性を持たせる事が出来る。
ただそれだけの遊戯器具。夢を見ようとする脳へ、情報を送り込んでそれに対する反応を返す。戻って来た返答に対し必要な情報を返す……その繰り返しで夢を見ている。そのやり取りが、正しくコンピューターゲームの仕様そのものである為に、これは『夢を見るゲーム』だ。
僕は、そこで初めて……自分の姿を見たのだと思う。
僕の愛する赤い色は幼いころからずっと側にあった。
僕のランドセルは赤かった。僕の名前を彩るシールの色だって赤だった。
海を見ている。青い海だ、これが青い海。そして暮れて行く空が赤く、ああ……赤く、これが赤だ。
怪我をする、血を流す。
僕の血は黒いわけじゃなかった、間違いなく赤い色だ。
色だ、世界に色がある。
誰かの、そうであるという記憶が、情報が、僕にも見える。
騙されていてもいい。僕は、正しくこの様に騙されてでも、世界に色がある事を知りたかった。
そうして夢から覚めた時、色を知った僕の頭は不思議な奇跡を起こしてくれた。
色が見えないはずの僕は、その時から色が、見える様になった気がしたんだ。正義の味方のリーダーの色が、レッドが、何故か僕にも見えた気がした。そこに赤がある事を僕は、信じる事が出来たんだ。
……色を知ってしまった僕の脳が、そこにあるべき色を想定して僕の認識を騙しに掛かっている。
本当は色なんて見えてないのはずなのに。認識一つで色が分かるなんて本当に、本当に、どうかしている。
知っている、僕の脳は正常か?
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